二本柱
メンテナンスを終えたひめは、彼女が言っていた通り、オプションのおかげもあって坑道を掘削する作業を効率よく行い、一日の作業を終えればすぐさま家に帰って浅葱と一緒に過ごすことを心掛けた。
二人で一緒に重蔵と開螺の家を訪れて二人の子をあやしたりもした。
浅葱が抱くと泣くのに、ひめが抱くと不思議とパッと泣きやんだ。その辺りはさすがに本来の姿と言うべきだろう。
剥がれ落ちた人工表皮を修復するのには時間を要したものの、その後のメンテナンスは、週に一度、作業を終えてから三十分ほどカプセルに入る程度で済む。それを終えればやはり浅葱の家にすぐに戻って、二人の時間を過ごした。
そしてさらに一年が過ぎ、地表へと向けた坑道は三千メートルに達していた。しかもあれ以来事故らしい事故もなく、ひめの姿も、失われた左前腕と右下腿以外は美しさを保っていた。オプションとして装備された蜘蛛の脚のような副腕についてはさすがに相変わらず異様な印象を与えたが。
と、ひめについては順調そのものだったのに加え、実は、ついに<シールドマシン>が新たに稼働することがついに本決まりとなった。技術者達の不断の努力が実り、ひめをして『実現不可能』と言わしめたそれを達成してみせたのである。
もちろん、本来の機能を完全に取り戻せた訳ではない。シールドマシンの名前の由来である<シールド工法>に欠かせないパネルについては供給がままならず、あくまで坑道を掘削するだけに留まることになったのは事実である。
しかしそれでも、けっして坑道を掘るのが本来の機能ではないひめよりも圧倒的な能力で掘削できることは間違いなかった。
ただし、その構造として、斜度二十度以上の傾斜を与えると、ケーブル等を増設したことにより増えた自重で前に進めなくなる可能性があった為、最大斜度十七度を維持し、斜めに坑道を掘削して地表を目指すことになる。
地下都市で発見された無線給電機の容量ではシールドマシンに十分な給電ができないためだ。それでも、その掘削能力は、一日平均十二メートルと試算されていた。
これでも非常に厳しい想定である。考えうるもっとも悪い条件で算定したものだ。だから場合によっては十五メートル以上掘ることだって不可能じゃない。
「ひめ。これでもし、お前が掘削を続けられなくなったとしても、シールドマシンが地表を目指してくれる。だからもう無理はしないでほしい」
すでに後継者も選出され、最後の任期となった市長の舞華が懇願するようにひめに頭を下げた。その、気苦労からか目尻の皴もさらに増えた彼女に向かい、ひめも応える。
「分かりました。そうですね、元はと言えばこれは私の役目ではありませんでした。それを改めて思い出させてくださったことには、感謝いたします」
こうして、ほぼ垂直に地表を目指すひめと、最大斜度十七度で斜めに地表を目指すシールドマシンという二本柱で、救助を呼ぶ為の作戦が遂行されることになった。
圭児と遥座が発掘した地下都市からもたらされたものは、この世界を延命させることはできるだろうが、残念ながら永続的に維持させるには至らない。ひめにはそれが分かってしまう。
だから掘削を中断するわけにはいかなかったのだった。




