人間の為
失われてしまった左前腕部と右下腿部については、さすがに部品の交換が必要な為、メンテナンスカプセルでも修理はできない。無いものを作り出すことはできないからだ。その代わり、そのボディの中の<筋線維アクチュエータ>と呼ばれる、彼女の全身を構成する多数の小型ロボットそのもののメンテナンスもこのカプセルによって行われ、微小な傷や摩耗も修復された。と言うか、メイトギアのような人型のロボットの<メンテナンス>とは本来、それを指している。
これにより、失われた左前腕部と右下腿部を除けば、全体として数パーセント低下していた能力がほぼ回復したのだった。
しかしそれは同時に、ひめがこれまで以上に<作業>に集中できるようになったという意味でもある。
「浅葱様。寂しい思いをさせてしまって申し訳ございません。しかし、現在の技術の把握もほぼ完了いたしましたので、今後は、地表に向けての坑道の掘削を行うそれ以外の時間については、浅葱様の傍に寄り添わせていただくことをお約束します」
「…ばかやろう……」
ひめに気遣われて、でも浅葱は敢えて「ばかやろう」と噛み締めるように罵った。そう言わずにはいられなかったのだ。自分を気遣うその一方で、この世界の人間そのものを気遣い、救助を呼ぶ為の坑道の掘削はやめないと宣言したのと同じだったからである。
本来の用途ではない運用をしていたことで事故も多発したが、ノウハウを蓄積したことと機能が回復したことでこれからは事故も減るかもしれない。しかし、やはり根本的に<坑道を掘る>などというような重作業にはひめの機能そのものがそもそも適していない為、今後もひめには大きな負担になるだろう。メンテナンスを行っても回復しきれないダメージが蓄積していく可能性も高い。坑道が地表に到達する頃には、彼女が今の姿を保っていられる可能性がどれだけあるのか。
それでもなお、ひめは地表を目指す。浅葱達に希望が持てる未来をもたらしたいが為に。
人間がロボットをそういう風に作ったからだ。
ロボットの黎明期には、人間が行うことの多くをAIに任せてしまおうというような発想も試みられたが、それによる人間とAIの関係性の拗れを危惧した当時の人間達により、『やはりAI|(ロボット含む)は人間の道具であるべきだ』との結論が出され、人間にとっては危険な作業や身体的な負担が大きすぎる作業のみをロボットに置き換えるという形での普及が推進された。また、AIには敢えて人間の感情のようなものは再現しないということも禁忌として加えられた。
こうしてロボットは、どこまでいっても<人間の為>を貫くようになったのである。




