メンテナンス
圭児と遥座が発見したそれは、紛れもない<地下都市>だった。これまで発見されてきた、個々人や極めて限られた小集団によって個別に行われた生存空間の確保とは違って、きちんとした都市計画の上で社会的な生活をまとまった集団で行う為の都市だったのである。
恐らくは、<都市>と呼べる本当に最後の頃のものだったのだろう。これまで発見された記録から推測されていた<都市>はさらに上にあるはずだったが、情報が共有されなかったことで伝わってなかったのかも知れない。
全長約二キロメートル。全幅約八百メートルのそれは、思ったほどは人が活動していた形跡が見られず、作られたもののあまり活用されないうちに人間の活動に伴う熱で溶けて降り注いだのであろう水が再び凍りついて多くの部分が氷で埋め尽くされたことで放棄されたものだと推測された。それでもこれまでに発見されたものとは比較にならない、<失われた技術>の宝庫だったのは間違いない。
そしてそこで発見されたものの中には、ひめにとっても待ち望んでいたものがあった。
電気を電波として送信し給電する、<無線給電機>がその一つである。ひめが作られた時よりはずっと後年のものだったが、ユニバーサル規格の為、問題なくひめにも適合する装置だったのだ。
さりとてさすがにそのままでは使えなかったものの、技術者らが発信用の装置に改造を施し、坑道までは有線で給電するとしてそこから先は坑道内に複数の<無線給電機>を設置しリレーすることで、ひめは充電の為に休養を取る必要がなくなった。
とは言え、さすがに残土の回収の為に人間を休みなく働かせる訳にはいかないのでこれまで通り夜は休むものの、<休日>は不要になったのである。その分は、残土の回収を受け持つ人間をローテーションで派遣してもらうことで対応できた。
さらにもう一つ。
「これでメンテナンスが受けられます」
ひめが嬉しそうにも見える笑顔で見詰めていたのは、<メイトギア用のメンテナンスカプセル>だった。しかも、ひめにも適合する旧規格の。
これは、全自動でメイトギアのメンテナンスを行う装置であり、同時に発見された補修材を使うことで、剥がれ落ちた人工皮膚を再生させることができるようになるというものである。
しかもそれは、人工皮膚の再生のみならず、彼女の全身をくまなくメンテナンスできるものであった。その為の<修理用ナノマシン>のタンクも同時に発見された。
この地下都市は、残されていた情報を見ても、折守市を建設した者達には存在を知られていなかったものである可能性が高く、そのため、使えるメンテナンスカプセルが残されていたことも知られることがなかったのかもしれない。もっとも、情報が伝わっていたところで、旧規格のそれだったので、どのみち使えなかっただろうが。
これらの点も含めて、人間の技術者達だけではそれらがどのような遺物であるか理解するまでにも場合によっては何年もかかる可能性があったが、ひめにとってはまさに日常の中で当たり前に見てきたものばかりであり、その使用方法も当然、熟知していたのだった。
しかし地下都市から運び出すことは非常に困難だった為、街から新たに電源ケーブルを引っ張り、櫓に設置した無線給電機に繋ぎ、そこから先は氷窟内に設置した無線給電機によって地下都市に給電。メンテナンスカプセルを使えるようにしたのであった。




