辿り着いた空間
「……」
その日圭児は、不可思議な予感に自分の胸が湧きたつような気分を覚えていた。こんなことは生まれて初めてである。ついつい焦ってしまいそうになるのを抑えるだけで手一杯というほどだった。
氷窟を掘る手応えがこれまでと違う。明らかにその先に空洞がある手応えだった。音も違うのだ。
彼もこれまでに二度、凍土内の空間を掘り当て、遺物を発掘してきた。その一つが、彼が持つ超振動ナイフであった。
それを発見した時以上の手応えを感じるのだ。
そしてその予感は、現実のものとなった。
「これは……」
非常に硬い人工のパネルにぶち当たり、バールなどではロクに傷も付かなかった為、圭児はこの時とばかりに超振動ナイフを取り出し、パネルに当ててスイッチを入れた。用意した最新式のバッテリーでも使える時間は僅か三分ほど。その間に侵入経路を確保しなければならない。
独特の、聞こえるような聞こえないような<音>を立てつつ、ナイフがパネルを切り裂いていく。バッテリーの残量が心許なくなった頃、ようやく、人一人が通れそうな<穴>を開けることができたのだった。
その暗闇に照明を差し込み、中を照らす。
「うおっ!?」
そんな声が思わず漏れた。
なにしろそこに見えたのは、<建物>だったのだから。地下の空間の中に、建物があったのだ。更にありったけの照明を持って中に入り、照らし出す。
しかし、普通に一部屋くらいなら十分に生活できるほど明るくなる筈の光量にも拘らず、中の空間はごく一部しか照らせなかった。
「街…じゃねえか……」
そう。照明の灯りにぼんやりと浮かび上がり、彼の目の前に広がっていたのは、高さ数十メートルはあろうかという<ビル>が立ち並ぶ、奥行きはどこまであるのか見当も付かない、<地下の街>だったのである。
彼が呆然とそれを見詰めていると、遠くの方で物音がした。
「!?」
何事かと身構える彼の視線の先で、突然、<地面>から何かが突き出し、開いた穴から僅かに光が漏れるのが見えた。圭児のいる場所からは二百メートルほど離れているだろうか。それを見た瞬間、彼はピンときていた。
「遥座…か?」
彼の直感は正しかった。地面から突き出たのは、遥座のハンマードリルであった。
地面、いや、明らかに<道路>として整備されたそこを小走りで駆けより、僅かに空いた穴から覗く顔は紛れもなく遥座だった。
「圭児…!?」
驚いたのは遥座も同じだった。ようやく穴が開いたと思ったらそこに圭児の顔が見えたのだから。
圭児と遥座は、ほぼ同時に同じ地下空間に辿り着いたのである。
「バッテリーを貸してくれ。こっちから侵入経路を開けてやる」
「お、おう…!」
遥座のバッテリーと自らの超振動ナイフを繋ぎ、道路を切り裂いていったのだった。




