微笑み
ところで、代用フレームが出来上がるまでの間、左腕を失った状態のひめがどうしていたかと言うと、浅葱が仕事に出ている間は、市内に点在する工場や研究施設などに出向いて、それぞれの技術を把握することに勤めた。
ひめはすっかり有名人?になっていた為に、行く先々で歓待を受け、
「大丈夫なのか?」
「痛くはないのか?」
等の質問攻めを受けることとなった。しかしメイトギアはそのような人間の反応も既に承知の上なので、特に慌てることもなく、
「ありがとうございます。痛みはありません」
と丁寧に応えていたのだった。
その上で彼らの持つ技術を習得し、自身のストレージへと記録する。後程メモリーカードにもバックアップを取り、さらニュートとも情報を共有するのだ。
それらが終わるとようやく浅葱の家へと帰り、彼女と共に過ごす。
「痛くはないのか…?」
やはり浅葱にもそう訊かれた。
この世界の人間達は本当に不器用ではあるが心根が優しいのだと思わされる。
「痛くはありません。ただいま、代わりのフレームを作っていただいているところですので、そちらが完成すれば概ね問題ないでしょう」
そう応えると浅葱もホッとしたような様子を見せた。
しかしこの時、もしかすると一番ひめを心配していたのは市長の舞華だったかもしれない。
「やはり、ひめだけに地表への坑道掘削を押し付ける訳にはいかない。シールドマシンの復活を急がねば。
でなければ彼女は、自身の腕を失おうが脚を失おうが私達の為に地表を目指すだろう。たとえ自らが朽ちようとも。彼女はそういう存在なのだ」
という舞華の認識が、もっともひめという存在を正確に理解していたかもしれない。
そして事実、彼女は自らがどれほど壊れようとも、地表を目指すことを止めなかった。
二年後、始閣らと同じように残土の搬出を担当していた学舎の子供達の前に現れたひめの姿は、かつての彼女のそれとは大きくかけ離れたものだった。
応急とは言え一度は修理した筈の左前腕は失われ、その代わりに三本の爪をワイヤーで操作するタイプの簡便な義手が付けられて、右脚は膝から下がやはり失われて代わりに鉄パイプがフレームに直接組みつけられ、顔の人工皮膚までボロボロに剥がれ落ちた、まるで童話に出てくる海賊のようなそれになった彼女がそこにいた。
あれから後も何度も事故があり、その度にひめは傷付き、壊れ、それでもなお地表を目指した。
「お前はどうしてそこまでするんだ…!?」
浅葱が強い調子で問い掛けても、彼女はやはり穏やかに微笑みながら言ったのだった。
「それがメイトギアというものだからです」




