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代用品

ひめが発電所の地下に放置されていたロボットから回収した<精密作業用サブアーム>は、重作業用のロボットであるレイバーギアでも場合によっては精密な作業を求められる場合もあるので、そのための腕として備えられていることの多いものだった。


それは通常、ボディ内にコンパクトに折り畳まれて収納されていることが多く、それもあって湿気の影響をあまり受けずに劣化が進んでいてなかったので、このままひめの修理には使えないにしても資料になるかもしれないと考えて回収したのである。


なのでそれは一旦置くとして、ひめの応急修理が進められた。


そちらについては、非常に複雑で高度な技術によって作られているという<筋線維アクチュエータ>が無事だったことで、ある意味ではひめの修理に光明が見えたと言ってもよかったかもしれない。何しろ、壊れていたのは骨格としてのフレームのみであり、それさえ何とかなればと思えたからだ。


しかし、当然、決して容易なことではない。フレームの素材そのものが現在の技術では再現することのできない<オーパーツ>のようなものなのだ。この世界の技術で同じ強度を持ったフレームを設計しようとすると、最低でも三倍の太さが必要だった。


「かつて発見されたという<メイトギア>のフレームを利用することはできないか?」


技術者の一人がそう発言したが、それもすぐに却下された。何しろひめ以前に発見されたメイトギアはひめよりもずっと後年になって製造されたものであり、構造については一見同じようにも見えるものの規格は変わってしまっていて、発電所地下で発見された<レイバーギア>と同じく実際にはまったく互換性がなかったのである。


「今の我々の技術で作れるもので代用するしかないということか……」


正確な寸法などのデータはひめから提供されたので、同じ形のものを作るだけなら不可能ではなかった。しかし、この繊細な仕上がりのフレームを同じ寸法で再現するとなると、てこの原理などを使うだけで人間の力でも曲げてしまえる程度の強度しか確保できないことは、計算上も明らかだった。


それでも作るしかない。


こうして、技術者達はひめのフレームの代用品の製造に取り掛かった。材料は現時点で一番の強度を持つチタン合金が選ばれ、その無垢材からの削り出しで作られることになる。


そして三日後、それは完成した。


「寸法そのものは問題ありません。仕上がりにつきましても、必ずしも十分とは言えませんが、恐らく使用には耐えるでしょう。ただ、これまでと同等の力を発揮しようとすれば、フレームが変形してしまうことは間違いありません。しかし今はこれでよしとするしかないのも事実ですね」


そう言いながら、ひめは自ら工具を用いて、破断したフレームを取り外し、<代用フレーム>を取り付けていった。彼女も認めていたように寸法については許容誤差範囲内に収まっていた為、組み付けることは難しくなかった。ただ、摺動部の仕上がりには現在の技術では限界があり、本来のそれの滑らかな動きまでは再現できなかった。


顔すら映り込むほど滑らかに仕上げられ、一見しただけなら何も問題なくスムーズに動いているようにも見えるものの、本来のメイトギアが持つ繊細かつ正確な動作を行わせるにはこれでも不十分だと言わざるを得ない。


実際、筋線維アクチュエータを再度組み上げて動かしてみると、僅かにキイ、キイと音がする。本来のフレームなら、人間の耳で聞き取れるような音は出なかったのだが。


一品ものとして現在の最高の技術で仕上げた筈にも拘らず、あくまで大量生産品に過ぎないひめのフレームの仕上がりには遠く及ばないという事実に、技術者達は、


「むう…」


と唸るしかできなかった。


また、フレーム交換の為に切り裂いた人工皮膚についても、それを再接着させる為の接着剤もない。なので現時点で最も強力な粘着力を持つテープを巻き付けて強引に固定し、その上からこの為に新たに設計した<サポーター>を被せて、ひめの応急修理は完了したのであった。



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