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寿命

「行くぞ…」


重蔵(じゅうぞう)が声を掛け、五人は(やぐら)を上り始めた。右手にはもう中指と薬指しかない重蔵だが、まるで危うさを感じさせず、器用に手を使いながらほぼ梯子のような階段を上っていく。浅葱(あさぎ)がそれに続き、圭児(けいじ)遥座(ようざ)開螺(あくら)と続く。開螺(あくら)を最後尾としたのは、宇宙服のおかげで最も体の自由が利く彼女を殿(しんがり)とすることで咄嗟の時のフォロー役になってもらう為である。彼女の力が頼みとは、そういう意味だ。


氷窟に入り、その中を慎重かつスムーズに進む。急いでいても決して走らない。焦ればどんな事故が起こるか分からないからだ。


足元も凍っているとはいえ、ここまで寒いと踏んだくらいでは溶けないので実はあまり滑らないのだが、逆にコンクリートと変わらないくらいの硬さがある。万が一転倒して打ち所が悪ければ即死するくらいのことは、今でも数年に一度の割合で起こっているのだ。


まったく口を利くことすらなく、五人は黙々と氷窟を進んだ。結構な傾斜のそこを上へ上へと。


ちなみにフードには、圭児(けいじ)が辛子色の三本ストライプ。遥座(ようざ)が青い四重丸。開螺(あくら)は斜めになった赤い十字架のような模様が描かれている。


そして一時間程で浅葱(あさぎ)が掘り当てた物置らしきところへの入り口に差し掛かった。


高度計を確認すると四百メートルを少し過ぎたところか。氷窟の先端である高度五百メートルまではまだかなりある。


「まさかこんなところに…」


重蔵が思わず呟いた。ここは重蔵が若い頃に掘ったところだ。なのにそれに気付かなかった自分が不甲斐ないと感じてしまった。


とは言え、それもよくあることだ。ほんの一メートルずれるだけで行きあたらない。この辺りにある遺跡は、現在のそれの前としてはおそらく最後の地下都市の跡である。既に文明としてもほぼ崩壊した状態で計画性もなく各々が逃げるように必死に地下を掘り進んで築いたものが殆どだった為、それぞれがロクに繋がってもいない個人用シェルターに近い施設が出鱈目に点在してる、もはや<都市>とは言えないモノであったからだ。


この上、更に五百メートルほど掘り進めれば、そこにはある程度の規模を持った<地下都市>と呼べる施設跡があるのは確実なのだが、今のままではそこまでたどり着く前に人間は滅びるであろうと、一部の者達は予測していた。


しかし、浅葱(あさぎ)をはじめとした砕氷(さいひ)達は決して諦めることなく上を目指す。たとえそれが地獄のような場所であっても。自分達が生きる為に。自分の子や孫を生かす為に。


浅葱(あさぎ)、十三歳。重蔵、四十三歳。圭児(けいじ)、十九歳。遥座(ようざ)、二十四歳。開螺(あくら)、二十六歳。


現在の平均寿命、四十八歳。十三歳で成人として認められる、彼女らの短い人生が濃密に燃えていたのだった。



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