分解
「なんということだ…! 大丈夫なのか? ひめ!」
蓮杖の運転するトラックの荷台に乗せられ、ひめは市長の舞香の下に送り届けられた。
「申し訳ありません。私の不注意です……」
恐縮しきりという様子でひめが舞華に頭を下げる。
「そんなことはいい。とにかくどうなんだ? 治るのか?」
だらんとぶら下がったひめの左腕を見ながら舞華が尋ねると、ひめは静かに首を横に振った。
「おそらく関節部分が完全に折れています。筋線維アクチュエータは破断していませんので応急修理によってある程度は動かせるようにはなるかもしれませんが、現在の技術と確保できる素材では、本来の強度と出力を確保することは難しいでしょう。そういう意味では完全には直りません。ですが、ある程度までは使えるようにもなるかもしれません。
皆様の協力をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ! 何でも言ってくれ。協力は惜しまない!」
そしてひめは、浅葱には、
「今日は帰れません」
と告げて、この時点では最高の技術を持つ者達の協力の下、折れた左腕の応急修理に取り掛かることとなった。
専門の技術者はもちろんいないので、ひめ自身が自らの設計データを基にまず折れた左腕を大まかに分解する。
人間の真皮に当たるピンク色の人工皮膚を、接着部分からナイフによって切開し、取り外す。するとその下には、まるで人間の筋肉そのもののように複雑に絡み合った<人工筋肉>が姿を現したのだった。
それは、人間の構造そのものを人工物に置き換えて再現したものであり、これによって人間とほぼ変わらない動きを再現しているのだ。その効率と出力は、生物のそれを大きく上回り、人間の筋電と同等の電力で数倍の力を発揮する。高出力ながら電気的な効率は非常に高く、それ故に内蔵バッテリーに満充電すれば一ヶ月ほども動作を続けられるのである。
その<筋線維アクチュエータ>は、電気に反応し形を変える形状記憶樹脂製のワイヤーの集合体であり、金属質にも見える光沢をもつことを除けば本当に人間の筋肉のようにも見えるものであった。
技術者達が驚きや強い関心の眼差しを向ける中、ひめはそれを一つ一つ取り外していく。樹脂製の<筋肉>はそれぞれスリットに差し込まれる形で噛み合わされており、完全には固定されていなかった。互いに引っ張り合うことと、人工皮膚に包むことでバラバラにならないようになっているのである。
それらには大きな破損はなくそのまま使えそうだったが、筋線維アクチュエータを取り外したことで覗いた、人間の骨格に当たるフレームは、関節部分がやはり完全に破断していたのだった。




