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落下

ひめが地表に向けて坑道を掘り始めて既に百日。高さは既に二百メートルを大きく上回っていた。


『そろそろ時間ですね…』


内臓時計のおかげで時間に正確なひめは、子供達に過度な労働を強いることのないように時間を調節して作業を行っていた。


しかも、高さ二百メートルを超えたとなると、上下するだけでもそれなりの時間を要する。さらには、滑車に掛けたワイヤーで上下するのも、さすがにそろそろ限界と思われた。ワイヤーの長さもそうだが、滑車に掛かる負担が大きくなってきたのだ。何しろワイヤーの重量だけでも既に一トンを超えている。もっと高い技術で作られた軽量高強度のワイヤーならまだしも、あくまでただの鋼線をより合わせて作られただけのワイヤーでは、途中で捩じれて<キンク>という変形が生じ、強度が著しく低下する現象が起きることもある。


なのでひめは、ここから先は僅かに坑道をずらし、残土はそのまま下まで落ちるようにしつつも、また別にワイヤーと滑車を用意して、いわば<乗り換え>のようにすることにした。


それを考えながら、ワイヤーに掴まり、坑道を降下する。


だがその時、


「!?」


ひめのセンサーが異常な振動を感知した。


「マズい…!」


彼女がそう声を上げた瞬間、滑車を固定していた部分が崩壊、滑車そのものが落下してきた。ひめは、足場として坑道に設置してきた梯子に掴まり転落を免れたが、滑車はそのままひめの頭を掠め、落下していく。


下には決して入らないように子供達には言い聞かせているのでそのまま直撃などということはないとしても、落下した滑車が不規則に跳ねたりして子供達に危険が及ぶ可能性はあった。


「く…!」


ひめはそれを回避する為、掴んでいたワイヤーは放さなかった。そのワイヤーと滑車の落下のエネルギーが、ひめの腕に掛かる。


ゴキン!


という嫌な音と共に、ひめの左腕があらぬ方向へと折れ曲がった。いくらロボットとは言え、あくまで人間の介護や家事を行うことが目的の一般仕様のメイトギアでは、その荷重に耐えきれなかったのである。


しかし幸い、そのおかげで滑車の落下速度は一旦殆どゼロになり、改めてそこから落下したが、十数メートル程度だったこともあって、水平に掘られた坑道の床面を数センチ穿っただけで停止した。


「迂闊でした…」


折れ曲がった自らの左腕を見ながら、ひめはそれでも冷静に呟いた。ロボットだからもちろん痛みは感じない。そういう意味では慌てる必要もなかったが、まだ二百数十メートルしか掘っていない段階でのこの損傷は、彼女にとっても大きな痛手となったのだった。



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