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妊娠出産

この世界では、妊娠、出産も<仕事>として認識されている。社会を維持し、僅か七万人しか残っていない<人間という種>を存続させる為の重要な仕事なのだ。


よって、妊娠中~子供が三歳になるまでの期間は夫婦揃って市の職員扱いとなり、市から手当が支給されることになる。検診は義務。妊娠出産に掛かる費用は市が負担することになっていた。


しかし医療技術は必ずしも高くなく、出産時の事故などにより妊婦が命を落とす事例も、一パーセントほどと決して低い数字ではなかった。ちなみに西暦二千年頃の日本での妊産婦死亡率は〇.〇〇〇三パーセント程度と言われている。〇.四パーセントほどだった西暦千九百年頃の日本と比べても倍以上の死亡率だ。過酷過ぎる環境も負担になっているのかもしれない。


もっとも、砕氷(さいひ)が四十歳を迎えるまでに事故で死亡する確率は五パーセントほどなので、それに比べればまだ安全だと言えるかもしれないが。


いずれにせよ、この世界の人間達は常に死と隣り合わせに生きている。故にその死生観を理解することは難しいだろう。もしかすると戦国時代辺りのそれに近かったりするのだろうか。


開螺(あくら)も既に万が一の時のことは頭にある。だが彼女は最後のその瞬間まで諦めることはないと思われる。死を覚悟することと、生を諦めることとは必ずしもイコールではないからだ。


『私もいずれは……』


当面の間、禁酒生活に入ることになることで最後の酒とばかりにあおる開螺(あくら)を見ながら、浅葱あさぎは身が引き締まるのを感じていた。


なお、十三歳で成人とは認められるものの、妊娠出産が推奨されるようになるのは十六歳以降なので、成人したからと言ってすぐに伴侶を見付けたりすることは基本的にない。周囲が相手を見繕うとは言っても、そこから互いをよく知り、十六になる頃に結婚という形が一般的だった。


むしろ一旦は別の仕事に就き、それが身に付いてからというのが普通である。でないと、子供が三歳になって改めて別の仕事をする時に要領も分かっていないでは困るからだ。


加えて、十三歳ではさすがに女性の方の体が十分に出来上がる訳ではないことも分かっている。分かっているが、やはり早く自立して社会を支えてほしいという切実な願いもあるのだった。




翌日、いや、実際には酒が完全に抜ける翌々日からだが、開螺(あくら)重蔵(じゅうぞう)は、子を生す為の生活に入った。重蔵は既に砕氷(さいひ)を引退しているので、そちらに集中することになる。夜となく昼となく睦み合い、一刻も早く子を作らなければいけない。


まあ、夫側が別の仕事をしていればそこまでは無理だが、さすがに妊娠が確定するまでは手当は出ないのでのんびりはしていられないという事情もある。


もっとも、今回の二人の場合は、幸いにも二ヶ月後には開螺(あくら)の妊娠が確認され、晴れて<子を成し育む仕事>を始められることになったのだが。


また、種が強いのか畑がいいのか、結局、重蔵と開螺(あくら)の間には最終的に四人の子供が迎えられることになったのだという。



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