まだ見ぬ子孫の為に
人間の技術者達の挑戦は非常に困難なものであり、ひめのシミュレーションでは実現の可能性は十万分の一にも満たないという試算が出ていた。
しかし、人間というものは過去にも何度も<不可能>と称されるものを克服してきた先例がある為、『まだ分からない』というのが実際かもしれない。
そもそもひめのシミュレーション自体、『現時点での実現可能性』というだけであって、技術が進めば前提も変わり数値は大きく変動する。だからあまり意味がないとも言えるのだ。
そして人間の技術者達は諦めるつもりがないらしい。
そういう人間達の挑戦を見守りつつ、ひめは地表への坑道を掘り続けた。その速度、一日平均三メートル。地表までは約七キロの凍土及び氷を掘り進めないといけないことから、休養も考慮に入れて一年で千メートル。約七年の時間を要すると見積もられている計画だった。
それと同時に、シールドマシンの復活も図られる。
おそらく、万が一にもシールドマシンが使えるようになれば、ひめとシールドマシン両方で掘削することになるだろう。どちらか一方に任せるのではなく、双方共に掘削を行うというだけだ。より確実に地表への坑道を確保する為に。
ひめは掘る。ただ黙々と掘る。浅葱達砕氷に倣い、ただ黙々と。
坑道は既に高さ五十メートルに達していた。そしてその日の作業を終え、滑車に掛けたワイヤーを使い、午後の作業を担当している蓮杖、角泉、釈侍の元へと降りてきた。
「お疲れ様でした。また明日もよろしくお願いいたします」
にこやかに挨拶するひめに、蓮杖達は「ああ…」と短く応えた。
それから皆でトラックに乗り、町へと帰る。運転するのは蓮杖だ。子供達はキャビンに乗り、ひめは荷台に乗る。
そんな子供達を見詰めながら、ひめは思った。
「彼らの為にも急がなくてはいけませんね……」
とは言え、順調にいったとしてもこの子供達が生きている間に救援が来ることはないだろう。しかし、この子供達の子孫はいずれ救い出される可能性がある。彼らもその為に働いているのだ。自分達のまだ見ぬ子孫の為に。
浅葱の家に帰ると、今日は重蔵の家で皆で集まってささやかな酒宴を行うことになった。いよいよ重蔵と、重蔵の妻となった開螺とで子を生す為の生活に入るにあたり、酒が飲めなくなる開螺を労うことを目的に行われる酒宴なのだそうだ。
ひめも、酒は飲めないが浅葱の家族として参加することにした。
「開螺、いい子を産んでくれよ…」
真っ直ぐに見詰めながらそう言う浅葱に、
「任せろ…」
と短く応える開螺の姿も、ひめは穏やかに見守っていたのだった。




