防寒装備
翌日、浅葱の前には、三人の人間が立っていた。昨日、重蔵が言っていた、圭児と遥座および開螺である。三人ともいかめしい顔つきをしてるのでよく分からないが、圭児と遥座は男性で、開螺は女性だった。みな、砕氷としての実績を積んだ者達である。
「お宝、発見したらしいな…」
圭児が浅葱に向かってそう言うと、
「これでお前も一人前だな…」
と遥座が続いた。さらに、
「私もお宝拝ませてもらうよ…」
開螺が呟くように言う。この世界の住人達、特に砕氷はこういう感じの喋り方をするものが多かった。口数少なくあまり大きく口を開けて喋らない。しかも淡々としてるので機嫌が悪そうにも見えるが、実はこれでも浅葱のことを祝福しているのである。迂闊に息をすれば肺が凍って死に至るような環境で生きている為、はしゃいだりしないように自分を抑えていることもあって、どうしてもこうなるのだ。
そこに重蔵が現れ、指揮を執る。
「では、行くぞ…」
「はい」と短く答え、四人は先を歩き始めた重蔵の後に続いた。櫓に辿り着き、それぞれ、土竜海豹の革で作った鎧のような防寒装備を身に着け始めた。だがその中で、開螺だけは、まるで宇宙服のような、明らかに人工的な素材でできたものを身に着けていた。
いや、『宇宙服のような』ではなく、実は本当に<宇宙服>なのだ。
それは、開螺自身が見付けた発掘品だった。もう既に十年以上前になるが中までびっしり氷で埋め尽くされた部屋を掘り当て、そこで発見された宇宙服を彼女は防寒装備代わりに使っているのである。温度というものが殆どない宇宙空間でも活動できるそれであれば、氷点下五十度程度の寒さなどどうということもなかった。
ただし、本来のそれとは大きくかけ離れた使い方をしている上に破損した部分を補修用テープで塞いでいるだけという風にロクなメンテナンスも受けていない為、既に気密性は無いに等しく、宇宙服としてはまったく役には立たないが。また、左上腕部には、かすれて読み辛いが、辛うじて<しおかぜ>と書かれているのが分かる。おそらくは備えられていた宇宙船の船名だろう。
なお、備えられているはずの各種生命維持装置や通信装置もすべて故障しているようだ。
それでも、他の砕氷が使う土竜海豹の革で作った防寒装備とは比べ物にならないくらいに性能が高く、軽く、そして普段着とさほど変わらないくらいに体の動きが制限されない。その宇宙服のおかげもあり、重蔵を除けばこの中では一番、砕氷としての実績を積んでいたのだった。
だから今回も、開螺の力が一番の頼みになる。
しかし、圭児と遥座も優れた砕氷であり、かつ二人が使っている掘削道具も発掘品で、浅葱が使っている<びしゃん>とは比べ物にならないほどに強力なものであった。