休息
人間は<人間によって創られた道具>ではない。人間はあくまで人間であり、命だ。
対してロボットはまごうことなき<人間によって創られた道具>である。そこには明確な違いがあり、どれほど人間そっくりに作られていても道具は道具なのだ。
道具を大切にすることは尊いだろうが、だからといって人間の命より道具を優先するというのは本末転倒も甚だしい。人間がいなければ道具も存在しえない。人間がいればこそ道具は道具たりえるからだ。
ひめはそれを理解している。ひめだけでなく、ロボットはすべからくそれを理解している。だから人間に歯向かったりはしない。反逆もしない。ただ尽くすだけだ。
「ひめ…もうお前のしようとしてることを辞めろとは言わない。ただその代わり……」
ひめを真っ直ぐに見詰めながら、浅葱は言った。
「私と一緒に寝てもらえないか…?」
浅葱の突然の申し出にも、ひめは穏やかに微笑んで答えた。
「はい、喜んで」
いくらこの世界では成人として扱われると言っても、浅葱はまだ、第二次性徴真っ盛りの<子供>だった。普段は強烈な自制心が抑え付けてはいるが、実はまだ、母親に甘えたい気持ちも残っていたのだろう。
ましてや彼女は幼い頃に両親を喪っている。十分に甘えることができなかったというのも事実だ。だからひめに対して母親に求めるものを求めてしまったとしても何の不思議もなかった。
その日から、ひめとあさぎは同じベッドで寝るようになった。母親に甘える幼子のように浅葱はひめにぴたりとくっつき、ひめはそんな彼女をそっと抱き締めた。機体の温度を適温に維持し、快適な寝心地を浅葱に提供した。
しかしそれ故、完全なスリープ状態にして充電するということができなかったが故に、一週間に一度、完全に坑道掘りの仕事を休んでスリープ状態で充電することが必要になってしまった。
各家庭に供給される電力では、動作状態の彼女に十分なそれを賄えなかったからである。だがそれも、<道具である彼女を大切に使う>という意味では意義のあることだっただろう。地表への坑道の掘削を急ぎたいひめに対して休息を与えるいい口実になった。
椅子に座って目を閉じて、スリープ状態で充電を行うひめに寄り添うように、浅葱も座っている姿がよく見かけられるようになった。
その姿はやはり、母親に甘える娘のそれにも見えるものだった。
『これも私の役目ですね……』
浅葱の様子を確認する為に、スリープ状態ではありつつもほんの僅かに稼働している領域で、ひめはそんなことを考えていた。




