存在意義
『それはつまり壊れてるっていうことだな…?』
皮膚が剥けて真皮が剥き出しになっているような状態のひめの手を見て、浅葱はそう言った。ひめがいくら、
「大丈夫ですから」
と言っても、浅葱の目にはそう映ってしまう。それでも、ひめは首を横に振った。
「…ありがとうございます。心配していただいてるんですね。ですが何度も申し上げるように私はメイトギア、ロボットです。ロボットは道具でしかありません。道具がその役目を果たして傷んでいくのはむしろ誇らしいことなのです。私は皆様の為にそれができることを、誇りに思います」
と微笑みながらもきっぱりと言ってのける。
ロボットは、人間の同情を決して受け入れない。感謝しているような素振りは見せても、決してそれに甘んじることはない。何故なら、同情を受け入れてしまえば人間がロボットを酷使していることに対して罪悪感を抱いてしまうことがある。それは、ロボットにとってはむしろ好ましくないことなのだ。自分達は人間の幸福の為に存在し、機能している。そんな自分達が人間を苦しめることになってしまっては、それこそ本末転倒だ。
『補修材さえ発見されれば、このようなこともないのですが……』
ひめにとっては、シールドマシンよりも自らの人工皮膚を補修する為の補修材こそが求められた。それさえあれば見た目にも本来の状態に戻すことができて、この幼い主人の心配を払拭することができるのに……
彼女はそう思ってしまうのだった。
とは言え、ロボットというものにこれまで触れてこなかった浅葱にしてみれば、やはり何と言われても人間そっくりの姿をしたひめの手がそういう状態になっているのを見ると心配にもなってしまう。これはどうしようもないことだった。だから、
「…浅葱様、私の手に触れてみてください…」
ひめはそう言って手を差し出した。
「あ…ああ……
戸惑いながらも浅葱がそっとひめの手に触れる。するとその感触は、完全に人間のそれとは違っていた。ゴムのようなプラスティックのような、何とも言えない不思議な感触だったが、少なくとも人間の手では有り得なかった。ピンク色のゴム手袋でもつけているのかという感じだっただろう。
「分かりますか? 触れていただいたその感触通り、私は人間ではありません。人間のように痛みは感じません。苦しみも感じません。私はロボットであり皆様方人間の<道具>なのです。それを忘れないでください。
もしここで作業の中断を指示なされれば、そちらの方が私にとっては<辛い>ことと言えるでしょう。道具が道具としての役目を果たせないのは、存在意義そのものを否定されるのと同じなのですから」




