申し出
計画が承認されたことを確認したひめは、直ちに次の行動に移った。
まずは自分が掘り当てた居住スペースへと繋がる氷窟に放置してきた残土を、ありったけの残土袋を持ち込んでそれに詰めて搬出した。砕氷達が何年もかけて掘り出す量を僅か一日で掘り出した為にそれは大変な状態になっていたが、ひめにとってはそれほどのことではなかった。
ただ、いくら手袋をしてバールやシャベルを使ってはいてもここまでの過酷な作業は、いつしかひめの手や腕の人工皮膚を傷だらけにしていた。
本来ならばメイトギアをはじめとした人型のロボットを自動でメンテナンスする為の装置もあるのだが、今はまだ発掘されていない。人間のように代謝によって新しい皮膚が作り出されることのないひめの場合は、ただひたすら劣化していくだけである。せめて人工皮膚を補修する為の充填剤があればまだしもと思われるものの、それもまだない。
また、戦闘能力も付与された一部のメイトギアであれば、防弾防刃防爆仕様の非常に耐久性の高い高性能な人工皮膚が使用されているのものの、一般仕様のひめにはそこまでのものは装備されていなかった。
だが、傷だらけの自らの手を見る彼女は何故か嬉しそうにも見えた。
『ふふ…まるで人間のようですね……』
そんなことを考えながら。人間の為に損耗していくことはロボットにとってはある意味で<喜び>と言えるのかもしれない。彼女らは人間を守る為であれば笑顔のまま銃撃にすら身を曝す。ロボットとはそういうものなのだから。
「ひめ…私も手伝う……」
自身が掘りだした訳でもない残土の運び出しなど人間が喜んですることはあまりないということを知っているひめは人間達にその作業を委託する気はなかったのだが、浅葱が自ら申し出たそれについては、「ありがとうございます」と頭を下げて素直に受け入れた。するといつの間にか、圭児、遥座、開螺の三人も作業に加わっていた。
「手分けした方が早いだろう?」
自然にリーダー役に収まっていた最年長の開螺がそう言った。無論それに対してもひめは「ありがとうございます」と頭を下げた。
しかし、ひめを手伝うのはこの四人だけとなった。決して広いとは言い難い、しかも傾斜が急なところも多い氷窟を多くの人間が同時に行き交うのは、予期しない事故、しかも何人もが巻き込まれる多重事故になる危険性もあるので、この辺りが限度であっただろう。
正直なところ、一般仕様といえども人間の倍以上のパワーを持つひめに比べて生身の人間は非常に効率が悪く必ずしも劇的に作業時間を短縮することにはならなかったが、それでもひめだけで作業するよりも早く残土は綺麗に撤去されたのであった。




