他の世界
『地表に出る坑道を掘り、それを通じて器材を地表に搬出、他の惑星に救難信号を発信することで救援を要請する』
ひめの提案は、この世界に生きる人間達が完全に諦めて、思い起こすことすらなくなっていたアイデアだった。そもそも、『他の惑星にも人間がいる』とか、『宇宙を自在に行き来する船が存在する』とかという話どころか、誰一人として生まれてこの方、<空>を見たことがなく、その先に<宇宙>というものが存在するなどということさえもはやただの<お伽話>に等しい空想の中のものと化していたのだから。
「…そんなことが本当に可能なのか…?」
震える声で問い掛ける舞香に、ひめは淡々と「理論上は可能です」と穏やかな微笑みを浮かべたままで答えた。
『助けが来る…? <他の世界>から……? 他の世界……他の世界とはなんだ…? そんなものが本当に存在するのか……?』
この時、舞香の中に湧き上がってきたものは、<喜び>であったのかそれとも<不安>だったのか。
恐らくはその両方だろう。過酷なこの世界から自分達が救い出されるかもしれないという喜びと同時に、今の彼女達にとってはただの空想の中にしか存在しないとさえ思われていた<他の世界>から何者かが来るかもしれないという事実が、彼女の感情を激しく揺さぶったのだ。
しかし、続けてひめが語ったことで、舞香は冷静さを取り戻すことができた。
「ですが、それには数百年から数千年の時間を要する可能性があります。宇宙というものは、それほどのタイムスケジュールを念頭に置いて考えなければいけない場所なのです。
恐らく、今現在、生きてらっしゃる方々が存命中には救援は到着しないと考えていただいた方が良いでしょう。あくまで皆様方の子々孫々に希望を与える可能性がある計画でしかないというのも事実であるとお伝えしなければなりません」
『今すぐ救援が来るわけではない』
そう言われたことで、すっと精神が安定するのを舞香は自覚した。皮肉なことに、『自分自身が他の世界と直面せずに済むという事実』が、彼女を安堵させたのだ。
「そうか…我々の子々孫々に希望をもたらす計画か……」
と呟くことで改めてその意味を確かめる。自分には想像することさえままならない<未知なる世界への不安>が、<はるか未来の希望>へと置き換わるのを感じていた。それがすっと胸に落ちた。だから彼女は言った。
「いや…それでいい。我々の子々孫々に希望を与えることができるのであれば、まだ見ぬ子らが救われるのならば、救われるかもしれないのならば、私はその計画を否定することはできん。
お願いできるだろうか、ひめ……」




