余談2
前回に引き続いて余談となるが、今回はひめ自身の背景について触れることにしよう。
ひめは、元々、恒星間航行技術が実用化される少し前に、移住可能な惑星を探索する為に大量に打ち上げられた亜光速ロケットのオペレーターとして搭載されたメイトギアであった。それは、亜光速ロケットに人間を乗せて運用したらどうなるかということをシミュレーションする目的も兼ねていて、故に人間に非常に似せて作られたメイトギアが利用されたということである。
また、メイトギアには、人間の介護などの為に高性能かつ繊細なセンサー類が多数搭載されていることも、人間に掛かるであろう負荷を計測するのに都合が良いという目算もあった。
計画自体は順調に粛々と実行され、ひめも亜光速ロケットと共に太陽系の外へと旅立った。それで、様々なデータを収集して地球へと帰還する筈だったのだが、帰還中にロケットが故障、宇宙を漂うことになってしまった。
それでもデータだけは送信済みだった為、地球に届いたそれを解析した結果、惑星ハイシャインが発見されたのだった。つまり、ひめこそが惑星ハイシャイン発見の功労者と言えるだろう。
その後、恒星間航行技術が実用化され、それを備えた新たな探索船が、ひめのもたらしたデータを基に飛び立った。
この時に行われた探索の途中、宇宙を漂っていた亜光速ロケットが発信していた救難信号が捉えられ、これを発見、ひめも回収されることとなったのである。
ひめが収容された後も探索は続けられ、後に<ハイシャイン>と名付けられることになる惑星を発見。ひめはそのまま最初に築かれた基地に保管されることとなり、しばらく忘れ去られたように放置されたのだった。
なお、発見当時の惑星ハイシャインは、地球で言えば海で発生した動物が地上に進出するかどうかの時期であったらしく、地上には原始的な植物が既に繁茂していたものの動物の姿はごく僅かな節足動物を除けば殆ど海にしかない状態だった。しかも空気の組成もその頃の地球に似通っていて人間にとってはいささか厳しい環境であった為、数十年を掛けて大気を改良、人間が無理なく生存できるものへと改められた。
更に開発が進み入植が軌道に乗った頃にようやくひめの存在が思い起こされ、惑星ハイシャイン発見の功労者として大切に保存されることになったという形であった。その後、彼女はモニュメント的な扱いとなりそのおかげで廃棄されることなく存在し続けられたのだが、実は亜光速ロケットに搭載されていた時に、『速度が光速に近付くほどに流れる時間はゆっくりになる』という<ウラシマ効果>を考慮に入れた(地球で過ぎるであろう時間を見越した)設定を施されていたのがそのままにされていた為、結果的に四百年ものずれが生じてしまったということだった。
しかし、直後に起こった災禍により彼女は再び放置され、再度<発掘>されるまで眠りにつくこととなる。次に発掘された時には彼女の<功績>などについては忘れ去られて、単純に<貴重なメイトギアの資料>として保管されることになった。
そして最後のメンテナンスの際に内臓時計の設定がおかしくなっていることが判明して再設定はされたものの、肝心の日付がずれたままで残されてしまった。これも、メイトギアは本来、<標準時計>の時間を受信して自動的に内臓時計のずれを修正する機能があることで特に時刻合わせをする必要はなかったのだが、ひめ自身が非常に旧式なシステムで動いている為に当時の<標準時計>とリンクができず、自動で修正できないことを、メンテナンスを行った技術者が失念していたというのが顛末である。
また、ひめは、自身が亜光速ロケットのオペレーターとして運用されていたことなどについては、データそのものは残っているものの、再起動の際に浅葱を新たなオーナーとして登録したことで過去のオーナーやその頃の運用内容に関する詳細なデータにはロックが掛けられ、現在は取り出せない状態になっていたのであった。




