救難信号
恒星間航行用の技術、<ハイパードライブ>が実用化され、それを応用した超空間通信が現在の一般的な人間社会での惑星間の通信手段だったが、今の惑星ハイシャインではそれは望むべくもなかった。そこまでの技術はとうの昔に失われている。ひめのデータベースにも、概要については記されていたが、形にする手段がなかった。彼女自身にも超空間通信装置を作り出すだけの技術はない。資材もない。設備もない。
しかし、通常の電波を使った通信なら十分に再現可能である。出力にしても、電波が向けられた範囲内にある電子機器が全て一瞬で破壊されるほどのものを作ることも、電力さえ確保できれば不可能ではない。どうせ現在、惑星の表面上には人間どころか生物が存在していないのだから影響を心配する必要もない。
ただし、通常の電波では所詮、光と同じ速さでしか届けられないので、例えば百光年先にそれを受信できる技術を持った人間がいたとしても、救難信号が届くのは百年後である。そしてその救難信号を信じて救援に来てくれる可能性は必ずしも高くないだろう。とは言え、何もしなければそれこそただ滅びるのを待つだけだ。
高度なメンテナンスが受けられない現状でひめが機能を維持できる期間は、長くても数百年。それまでの間に何とか救援を呼ばなければならない。
この惑星から脱出するのか、それともここを再び余裕をもって生存可能な環境に戻すのか、それについては人間達の判断に任せるとして、彼女はとにかく自らにできることをやるべきだと思った。
重蔵と開螺の結婚を知らせる為の集まりが行われる直前、ひめが市長の舞華に依頼していたテレビ会議用の器材の設置が、浅葱の家の使っていなかった部屋で完了した。そこを<会議室>として使うことになる。
「……」
自分の家にテレビカメラが据え付けられたことに、浅葱は驚きを隠せなかった。と言っても、一目見て分かるような驚き方ではなく、ただ呆然としているだけのようではあったが。
もちろん、設置の許可はあらかじめ取っている。しかし浅葱にとってはピンとこない話であったことも事実だった。それが現実になってしまって驚いているのである。
その日から早速、ひめはテレビ会議を通じて、技術の収集に取り掛かった。まずは最重要な技術の一つである地熱発電所に関するものを、地熱発電所所長の|仁左及び地熱発電所技術主任の天振から、現在の施設の設計図なども提示してもらいつつ説明を受けた。それらは、ひめからすればあまりにも稚拙なものでしかなく、しかも不具合が発生する度に応急的な対処を繰り返してきた為に非常に複雑で非効率的なものであったが、一から全てを作り直すことは事実上不可能に近い状態であったので、現状維持を目指す為にもそれを把握するしかなかったのだった。




