結婚観
先にも述べたが、この世界を知ることでひめが気付いたことの一つに、
『ここの人達は、結婚し子を生すことに対する強烈な義務感を持っている』
というものがある。明文化された法律とか掟ではなかったが、僅か十三歳の浅葱でさえ、結婚し子供を産まないといけないと考えていた。
「お前は子供の育て方とかも知ってるのか?」
仕事の後で家で食事をしている時に浅葱が不意にそんなことを訊いてきた。
「はい、育児の補助は私の基本機能の一つです」
ひめがにこやかに答えると、浅葱は言った。
「私は重蔵と結婚を考えてる」
「え? それは本当ですか?」
さすがのひめにとってもその発言は予想外だった。いくら結婚することを義務だと思ってても、てっきり、村の若い男性と結婚するものと思っていたからである。
浅葱は続ける。
「お前も知ってる通り、重蔵は妻と娘を亡くしてる。だから自分が結婚するんだ」
と。それを聞いて『なるほど』とは思ったものの、かといって、
『諸手を挙げて祝福できることでもないですね』
と思ってしまった。
傍で彼女のことを見ていて、重蔵に対しては確かに砕氷の師としての尊敬の念はあるものの恋愛感情や男女の関係を意識しているようには感じ取れていなかったのだ。下手をすると読心術にも等しいほどに人間の心理を読み取ることさえできる<メイト>であるひめにさえそれが読み取れなかったのである。
当然だろう。この時の浅葱が抱いていたのは『子を残すという責任を果たせていない師の役に立ちたい』という義務感であって、男女の恋愛感情などではなかったのだから。
だがこれは、彼女に限ったことではなかった。ここでは、<恋愛結婚>という概念すらほぼ失われていたのである。もちろん、互いに惹かれ合って結婚するという事例はある。状況が許さず想いが実ることはなかったものの現に重蔵にも<想い人>はいた。
しかしそれはむしろ少数派であり、男女とも十三歳を過ぎれば周囲の人間が手頃な相手を見繕い、結婚することを勧めてくるし、よほど気に入らない相手でもない限り双方ともそれを受け入れて結婚が決まってしまうのが常だった。
何しろ、ここには七万人しか人間はいない。そして、子供を作らなければほんの数十年で文字通り<世界が滅ぶ>のである。<子供を作らない>などという選択肢はそもそも存在しない。
だからこそ、夫婦であっても互いに自分のことは自分でし、かつ子供のことは双方が等しく責任を負う。どちらかに任せきりになど決してできない。<イクメン>だの<ワンオペ育児>だのという言葉すら存在しないし存在しえない。もし親が亡くなれば誰かがその子供を育てるだけだ。
だから、重蔵が掘り当てた大型の電気ヒーターを送られた、社会からはじき出されて結婚も子供を残すこともままならなくなった者達がせめて死ぬまでの<社会奉仕>として、孤児などの世話をすることもあるのだった。
重蔵の初恋の相手だった女性とその家族が暮らしていた家も、そうやって何人かの子供を育てるうちに、孤児を預かる施設となっていったのである。




