双方向通信
ひめは今、氷窟を掘り遺跡の発掘を目指す砕氷としても働いている。彼女が氷窟の壁を叩いてその振動で地中の構造を大まかに把握した際に発見した、<人工物による空間>を目指して掘り進んだ氷窟は既に十メートルに達していた。残りは約二十メートル。一日一メートルほどのペースで掘り進んでいるので、あと二十日くらいでその<人工物による空間>がどのようなものか判明するだろう。
その作業を終えて浅葱と共に帰宅後、ひめは千治の下を訪れていた。
「現在の技術に関する情報をすべて開示していただけますか?」
ひめの狙いは、現在の技術水準を維持し、失伝を防ぐというものだった。
現在の人間の平均寿命は四十八歳。人によっては七十くらいまで生きる者もいるものの、殆どが過酷な環境に疲弊する為か六十を迎えることなく永眠する。確実に技術を次の世代に引き継ぐには時間が短すぎるのだ。
そこでひめは、自らにすべての技術を取り込み、自ら伝えることのできる<動くデータベース>として運用することを思い付いたのである。
「…私の方から頼むつもりだったが、お前がそれを望んでくれるのなら話は早い。さっそく、市長に掛け合ってみよう…」
千治もまったく同じことを考えていた為、対応は早かった。電話で市長にアポイントを取り、その日のうちに面会。
「分かった。さっそく各方面に当たってみよう」
と動いてくれた。
するとひめは「意見具申よろしいですか?」と手を上げて、「なんだ?」と問い掛ける舞華に提案した。
「このように話をするだけでよい場合には、こうして集まる為に要する時間も節約したく思います。つきましては、テレビ会議方式を導入していただければと思うのですが」
「テレビ会議? 何だそれは?」
カメラとテレビ画面を通じ双方向でリアルタイムに会談する発想も、既に失われていた。テレビは一方的に情報を流すだけの存在に先祖返りしていたのである。自らの脚で出向いて顔を合わせて確実にやり取りすることを優先してきた為だ。
しかしひめは、浅葱の家にテレビカメラとテレビを置き、双方向通信によって出向く為の時間を節約することを望んだ。ロボット同士ならそれこそ通信で繋がりリアルタイムで情報を共有することができる彼女にとって今のやり方は非常に非効率的に見えていた。
正直、テレビカメラなどの機材も今は家一軒が買えてしまう程に非常に高価な為、テレビ局以外で使うことなど有り得なかったが、世界の危機を救ってくれた彼女の提案を無下にすることは、舞香にとっても有り得ないことだった。
「いいだろう。その提案、受け入れよう」




