結婚式
ひめはロボットなので、<心>を持たない。だから本来は『嬉しい』と感じることはないのだが、こういう時は敢えてそう表現する方が人間には伝わりやすいということを知っており、だからあくまで<人間の好ましい気遣いに対する謝意を現す表現>として、『嬉しい』という言葉を使ったのだった。
故にこれは、ギリギリ<嘘>には当たらないと彼女のAIは判断する。
ここまで来ると<詭弁>の一種なのだが、やはり人間とうまく折り合う為にはそういうこともできないとダメなのだろう。
まあそれはさて置いて、子供達との交流は、ひめにとっても好ましいものであったのは事実のようである。
更にひめは、清見村の住人による結婚式にも参列した。
<結婚式>と言っても、おそらく多くの人間がイメージするようなものとはかなり違っていると思われる。
と言うのも、いわゆる結婚式場で行うのではなく、それぞれの家で、本当に身近な人間だけを集めて(せいぜい十人程度)、その前で結婚することを宣言するという形なのだ。格好も、いわゆる一張羅的なハレの日用のものを身に付けるものの、結婚式以外では着ないような服装ではなかった。
過酷な環境下で無理なく続けるためにはそうするしかなかったのだろう。『過酷だからこそこういう時には盛大に』という考えすら通用しないほどに厳しい環境であった。
それでも人間は生きている。
生きて、次の世代に命を繋いでいる。
しかも、何度か参列してみて、ひめは悟っていた。
『ここの人達は、結婚して子供を残すことにすごく強い義務感を抱いてますね』
まあそれも無理もないのかもしれない。なにしろ平均寿命四十八歳。僅か七万人しか残っていないのだから、子供が次々生まれてくれないとあっという間に滅びてしまう。少子化がどうこう言う暇さえない状態なのだから。
少子化対策をしているうちに、現時点での文明を維持するのに必要な数を割り込んでしまう。
正直な話をするなら、そこまで切羽詰まった世界でもあった。
だからとにかく結婚して子供を作ってというのが完全に義務として常識化しているらしい。
恋愛を楽しむとか、そういうのですらなさそうだった。
けれど、かと言って不幸せそうでもない。今、ひめの前にいる花婿も花嫁も、満たされた表情をしていた。自分が選んだ相手に対して責任を負う覚悟があるからだった。
「それにだいたい、子供が大きくなったらまた別の相手を探すのも普通だ」
と、浅葱が説明してくれた。
そしてこの場合の『子供が大きくなったら』は、十二~十三歳を指していたのだった。




