森
海での漁を見せてもらったので、ひめは、その次の休みの日に、今度は<森>に連れて行ってもらうことを望んだ。
「森に行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、分かった…」
とは言っても、森はそれこそ見るべきところがないので、浅葱も実は数えるほどしか行ったことがなかった。
そこで、清見村に住む、懐炉鹿専門の猟師、功凱に案内を頼むことにした。
「この街の恩人、ひめの頼みとなれば断れんな…」
重蔵よりはまだ若いが、それでも目尻に年季を感じさせる皴をたくわえたいかにも気難しそうな初老の男である功凱は、その見た目に反して二つ返事で快く引き受けてくれた。
しかも、
「ちょうど、懐炉鹿の猟に出るところだ…」
と、猟への同行も認めてくれた。
「それは興味があります」
この世界の成り立ちを知りたいと考えていたひめにとってはまさに渡りに船である。海での漁に引き続いて、森での猟を見られるとは。
が、功凱の運転するトラックに、浅葱は助手席、ひめは荷台という形で便乗して向かって見た<猟>は、ひめが予測していたものとはかなり違っていた。
なにしろ、寝床となっている建物に入り、懐炉鹿達が餌を食べている後ろの壁に開けられた穴から棒を使って突くというものだったからだ。棒の先には睡眠薬が仕掛けてあり、それで眠らせて、餌を食べ終えた他の懐炉鹿が出ていった後に、天井に設置されたホイスト式クレーンを使って吊り上げてトラックの荷台に積み込むというものであった。
『これは普通に<養殖>のような…?』
とは思ったものの、それは口にしない。そもそもこの世界そのものが地下空間を利用して作られた人工環境なので、森自体も極寒の環境でも生育するよう品種改良された針葉樹を植林することで作られた人工林であって、そこに住む懐炉鹿も元々は品種改良された種を放し飼いにしているようなものなのだ。
しかも、<森>と、人間の<居住区>とが密接する形なので、銃を使った猟はできないという事情もあった。
「こいつは歳を取ったからな。そのままにしておくと病気になって他の鹿にもうつしてしまうこともある。だからこうやって間引くんだ」
懐炉鹿を積み込んだトラックを運転して街へと戻りながら、功凱が説明してくれたのだった。




