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釣果

一見すると殆ど波もないただの水溜りのようなその地底湖にも、数は少ないが魚は住んでいた。実はこの惑星ハイシャインには、水を取り込んで水素によって代謝し、酸素を放出するという微生物がおり、それがこの地底の海に酸素を供給するので、殆ど波がなくても魚が生息できるのだった。


それでも、絶対的に数が少ないこともあり、釣れるのは月にせいぜい一尾か二尾。だからそれで生活が成り立つように非常に高価なのである。


そんな訳で釣れるところが見られることは滅多にないのだが、この日はその<滅多にないこと>が起こった。


「む…?」


健軍(けんぐん)が不意にそう声を上げて、体に緊張が奔る。


「…え?」


浅葱(あさぎ)も声を上げてしまった。驚いて。何しろ、魚がかかったところに出くわしたことがこれまで片手でも足りるほどしかなかったのだから。


健軍(けんぐん)は慎重に当りを探る。これを逃すと次はまたいつかかるか分からない。確実に釣り上げなければならなかった。


分厚い手袋をつけた手が繊細に竿を操る様子が見て取れた。


邪魔をしないようにする為か、浅葱(あさぎ)まで息を殺す。もちろんひめも、黙ってその様子を見守った。


静かな戦いが一分ほど続き、そして突然、健軍(けんぐん)が竿を振り上げると、ぐんっとそれが大きくしなる。大物だ。


万が一にも針が外れたり糸が切れては一大事なので、慎重かつ力強く、引いたり緩めたりを繰り返す。


五分ほどそれを続けて、ようやく魚が疲れたのかあまり暴れなくなったところを引き寄せて、網で確実に掬い上げた。


大きい。優に五十センチはあるであろう、どことなくブリに似た魚だった。


(こおり)ブリだ。まずまずの大きさだな…」


それまで殆ど口もきかなかった健軍(けんぐん)がそう言った。ブリに似ているのでその名がついた魚だった。以前、この地底湖で育つ魚は養殖魚に比べ小さいと言ったがもちろん中にはそれなりの大きさになるものもいる。この氷ブリもそういった魚の一種だった。しかし身は非常に締まって歯ごたえがあるそうだ。


「よくやったな…」


隣で釣りをしていた仲間の漁師が称えると、ようやく彼の顔に僅かな笑みがこぼれた。


釣れた魚を大事そうに箱に詰め、彼は竿を片付けて帰り支度を始めた。今日はもうこれで終わりである。このまま市場へと持って行って買い取ってもらうのだ。


「お前のおかげかもしれないな…」


魚が入った箱を肩に担いだ健軍(けんぐん)がひめをちらりと見てそう言った。彼もひめのことは話に聞いて知っていて、だから彼女が来たことで自分に幸運が巡ってきたのかもしれないと思ったのだった。



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