鑑定士
「これは、メディアか…?」
浅葱が持ち帰ったものを目にした重蔵は、顔の殆どを覆う目と口だけが覗くマスクごしでも分かる驚きの表情をして呟いた。
「…お前もこれで一人前だな…」
改めて自分に細めた目を向ける師に、浅葱は頭を横に振った。
「ただのまぐれです…」
見付けた時には思わず浮かれてしまったものの、実際には殆ど偶然のようなものだ。それを一人前と言われても、むしろ申し訳なさしかない。
「まぐれを呼び寄せるのも力だ。顔を上げろ。俺達が捜してるものは下にはない。上だ」
そう言いながら、自分達を押し潰そうとしているかのような圧迫感さえ覚える天蓋を見上げる重蔵につられるように浅葱も顔を上げた。
口数は少ないが、彼女にとって重蔵はこの世の誰よりも信頼できる偉大な師だった。その彼の言うことを蔑ろにするなんてことは浅葱にはできなかった。だから「…はい」と素直に応えられた。
「とにかくこれは千治に鑑定してもらおう。俺達はお前の見付けた遺物の回収の準備だ。忙しくなるぞ」
一旦、重蔵の家に戻って、土竜海豹の革でできた防寒具やバッグを部屋の定位置に戻し、彼女は重蔵と共に千治の家へと向かった。
千治は、浅葱と重蔵が暮らす清見村で唯一の<鑑定士>であり、発掘品の価値を鑑定してくれると同時に、それがどういうものであるのかを調べる学者でもあった。今では使い方すら伝わっていない物品が多く、実は大変な価値を秘めながらも活かされることもなくそのままにされているものも多かったのだった。
気温マイナス十三度。今日は比較的暖かい。裏地がボア状になったジャージのような外着だけでも歩けばうっすらと汗をかく。分厚いブーツで凍った地面を踏みしめるとガリッガリッと硬いもので引っ掻くような音がする。舗装などしてもその上に凍った水分が降り積もり、やすりのような地面になるので柔らかい素材ではすぐに靴底が削れてしまう。だから靴底もおろし金のようなスパイクの付いた金属製だった。重さも片方だけで一キロ以上ある。
そして、十分ほどで千治の家へと着いた。
玄関先に吊り下げられた木槌を手に取り、柱をガンガンと叩く。電気はあるもののインターホンのような簡単な機械は、内部に入り込んだ水分が凍ったりしてすぐに壊れるので結局はこれが確実なのだ。
すると家の中からも、コンコンと音が響いてきた。『入ってこい』という合図だ。ドアを開けると、その中にまたドアがあった。外の冷気を部屋の中に入れないようにする為だ。
「…よう……」
内側のドアを開けると、白衣のようなコートのような白っぽい服を纏い、短髪で無精髭をたくわえた長身の中年男が二人を出迎えたのだった。