価値
氷窟に入り、途中で圭児は、自らが掘り進めている氷窟の方へと入っていった。浅葱は当然、重蔵から受け継いだ、ひめを掘り当てた氷窟へと入っていく。氷窟を掘り進め、その帰りに今日も、彼女を見付けたあの物置からメディアを回収する為だった。
実は、ひめはあのメディアを読むことができるのだが、それを表示させられる機器がないことで、はっきりした内容が確認できないことが既に分かっていた。千治のところで充電中に、メディアの読み込みや会話程度の、あまり電力を消耗しない形での調査は行っていたのである。だから当面、メディアの入ったケース一つにつき銅貨三枚という価値は変わらないことになるだろう。
しかしそれでも良かった。一つあたり銅貨三枚なら十個持ち帰れば三十枚ということになる。それで生活には困らない。だから十分なのだ。
なお、メディアを読み込んだひめには当然のこととして内容が分かっている。ここまで持ち帰ったものは全て、家族の写真や動画、そしてニュース映像などが収められたライブラリーで、技術的な情報などではなかった。
だがそれと同時に、これによってひめ自身、惑星ハイシャインに起こった悲劇を改めて認識した。ハイシャインに起こった悲劇を特集したニュースの映像も含まれていたからだ。
実はメイトギアを含むロボットは、中古品であってもユーザー登録の際にそれまでのデータは基本的にリセットされるので、彼女も詳しい事情は理解していなかったのだ。
ただしそれらは、歴史的な意味はあっても、内容については敢えて公表しないということになっていたので、ひめも決して口外しなかった。
その代わり、市長の舞華は、浅葱が持ち帰るメディアの価値を銅貨三枚以下にしないことを指示していた。もしいつかそれを公表しても大丈夫な状況になるようなことがあれば、かつての人々の暮らしを知る重要な記録であることには変わりないからだ。
浅葱が持ち帰るメディアは全て千治を通じて市長の下に送られ、厳重に管理されることになる。
届けられたメディアを前に、舞華は深慮していた。
『ここに記されたものは、今の私達にとっては<毒>だ。しかし、だからといって永久に消し去ってしまうことも許されないだろう。私達の遠い祖先がここで生きていた証がここには刻まれているのだ。それを私の代で途絶えさせることはできない……
いつか私達がこれを受け止められる日がくるのだろうか……
私はそれを願わずにはいられないよ……』
舞華がそんなことを考えていたその時、浅葱はただ黙々と<びしゃん>を振るい、氷窟を掘り進んでいた。一日僅か数センチだが、百日あれば数メートル進む。それを砕氷はずっと繰り返してきたのだ。そしてこれからも。
そんな浅葱に、ひめは言った。
「私も、お手伝いしてよろしいでしょうか?」
「…掘るのをか…?」
「はい。私は重労働は本来の用途ではありませんが、私の能力の範囲内でできることであれば皆様のお役に立ちたいのです」
「……」
満面の笑みを浮かべて言う彼女に、浅葱は戸惑うしかできなかったのだった。




