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マニュアル

『ユーザーコードと行政への登録用コードが記されている可能性がございます』


<あさぎ>のその言葉に、事情を知らない浅葱(あさぎ)重蔵(じゅうぞう)を除いた全員にざわっとした気配が奔り抜ける。


その空気を察した浅葱(あさぎ)千治(せんじ)に目を向けた。何事かと思ったからだ。


問い掛けるような彼女の視線に、千治が応える。


「ユーザーコードと行政への登録用コードというものがあれば<ユーザー登録>が行えて、このメイトが完全なものになるそうだ」


という説明だけではよく分からなかったものの、『完全なものになる』というのならそれは良いことだとは素直に思えた。


もっとも、彼女と重蔵を除いた者達にとってはそれほど単純な話でもなかったが。


しかしここまでメイトに接してきたことで、千治だけじゃなく、市長の舞華(まいか)にもメイトに対する興味が芽生え始めていた。これが一体、どれほどのことができるのかという、純粋な興味だ。


「ユーザーコードと行政への登録用コードとやらは記されているのか?」


舞華が千治にそう尋ねると、それを聞いていた<あさぎ>が応える。


「裏表紙をめくってすぐのところに、記載欄がございます」


それは、ちょうど表紙を上にして床に置いたことで、温かい床に直に接することになった裏表紙ならもうめくることができるのではないかという期待を呼び起こすには十分な言葉だった。


千治がマニュアルを裏返すと、そちらは既に完全に融けていた。しかもその紙は、耐水性の高い高機能紙だった為、濡れても強度が落ちずシワにもならないものであった。


一目見ただけでももう十分にめくれるようになっているのが分かるそれを、千治は敢えて慎重にピンセットでつまんでみた。市に元々伝わっていた紙の本の多くは濡れると強度が下がるものが多く、乱暴に扱うと破れてしまうことを知っていたからだ。


しかしそのマニュアルは濡れても強度が落ちるものではなかった為、実に呆気なくするりと開かれてしまった。そしてそこには、確かに手書きの数字と記号の羅列が二つ、記されていた。


再びマニュアルをそっと持ち上げて、千治が<あさぎ>にそれを見せる。


「これが、ユーザーコードと行政への登録用コードというものか?」


その問い掛けに、<あさぎ>はまったくもったいぶることもなく実にあっさりと答えた。


「はい、ユーザーコードと行政への登録用コードを確認いたしました。こちらのコードでユーザー登録を行われますか?」


まるで買い物のメモを確認するかのようにあっさりとしたそれに、舞華達は唖然となる。


その中で、千治は言った。


浅葱(あさぎ)、お前が見付けたものだ。お前のものにすればいい」



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