集会所
浅葱は、夕食の時間にはまだかなりある頃には氷窟から出て、まずは重蔵の家に寄り、それから重蔵と共に千治の家に向かった。
「千治は今、集会所の方に泊まり込んでます。何でも、発掘品を市長らと一緒に調べてるとか」
千治の妻である花楓からそう言われて、浅葱と重蔵はそのまま集会所へと向かった。
集会所へは、村のすべての家から屋外に出ずに行けるようになっている。また、ほとんどの家は、玄関から靴を脱ぐことなく裏口へと通り抜けられる造りになっており、千治の家の裏口に回らせてもらって、集会所への廊下を歩いた。家々を繋ぐ廊下は、蒸気を送る配管や上下水道の配管、電線を通す為の通路も兼ねている。蒸気用の配管から僅かに立ち上る熱で温められ、気温はだいたい氷点下三度前後と、外よりは十度以上暖かい。
この環境に慣れた浅葱達にとっては、上着すら必要ない気温だった。
集会所に着いた二人は、ドアをどんどんと叩いた。
すると、僅かに開かれたドアから舞華の秘書の椋姫が顔を覗かせ、浅葱と重蔵を確認し、室内を振り返った。舞華に告げていたのだろう。
「入れ」
椋姫に招き入れられ二人がドアをくぐると、そこには<あさぎ>が立っていた。
「初めまして。私は、JAPAN-2社製、あさぎ2788KMM。<あさぎ>とお呼びくださいませ」
浅葱と重蔵の顔を見るなり、そう挨拶してくる。
『初めまして』ではないのにこれはどうしたことかと面食らっていると、千治が説明してくれた。
「こいつは、起動するたびに記憶がリセットされるようだ。そうならないようにするには<ユーザー登録>なるものが必要らしい」
そう言われて、浅葱ははっとなった。
「今日、こんなものを見付けた…」
と言いつつ彼女がバックパックから取り出したものは、棚に置かれていた<あさぎシリーズ・ユーザーズマニュアル>であった。
それを見た瞬間、千治の目が鋭くなる。
「もしや、それが鍵になるかもしれない」
浅葱からそれを受け取り、床の最も温かくなっているところに置く。ここに来るまでに既に融け始めてはいたがまだ凍り付いたままだったので、それを完全に融かす為だ。
メイトに対して懐疑的だった仙山と鹿丸もさすがに気になるのか、すぐ傍まで近付いてそれを観察し始める。
「なるほどこれが」
「メイトのマニュアルか…」
そんな人間達の様子に、<あさぎ>が口を開いた。
「そちらは私ども<あさぎシリーズ>のマニュアルでございます。ユーザーコードを書き留めておく欄がございますので、そちらにユーザーコードと行政への登録用コードが記されている可能性がございます」




