扉
翌日、<ねむりひめ>については千治達に任せるということで、浅葱は再び単独で氷窟に入っていた。発掘品を回収する為だ。壁に設置された棚一杯のメディアらしきものを取り敢えず少しずつ回収し、収入とする。
千治は『メイトで再生できれば金貨十枚になるかもしれない』と言ってはいたが、さすがに若い浅葱も冷静になって考えてみればこの数が一気に見付かれば値崩れを起こして安くなるのは察していた。だから銅貨三枚と計算して、一回につき十個ほど持ち帰ればいいかと考えていた。
発見者は彼女なので、権利は全て彼女にある。
ちなみに、それを横から掠め取ろうなどという不届き者も殆ど淘汰された世界だった。そうやって無駄に敵を作れば即、死が待ち受けているからだ。他者と力を合わせなければ生きていけないが故とも言えるだろう。
それでも、重蔵が掘り当てた電気ヒーターを寄付したことで救われた者がいるように、不利な条件の場所に追いやられる者もいる。かつてその者達の親族に罪人が出た等の理由で。件の者達は、祖父に当たる人物が、喧嘩で相手を死なせた罰として、家族もろとも蒸気の配管が来ていないところへと追いやられた。電気は来ているものの、あるのは小型の電気ヒーターのみ。家の中ですら気温が十度を超えることはなかった。
これを憐れんだ者達の助けもあって辛うじて生き延びている状態だった。
このように、すぐに死を与えられるわけではないものの、更に過酷な状況に追い込まれて、結果として一族郎党が全滅するということもあった。ある意味では連帯責任ということか。
それもまた、この世界の現実である。
浅葱は、<ねむりひめ>が見付かったことで、そういうことも無くなってくれればと、口には出さなかったが思っていた。その為に役に立てばと。
<ねむりひめ>が発見された部屋と言うか物置と言うかに着き、棚を足場にして慎重に中へと降りる。メディアを持ち帰るのが一番の目的だが、今回はその前に確認したいこともあった。この部屋だか物置だかがさらにどこかに通じていないかということの確認だ。
棚に埋もれるような形だったが、扉らしきものはすぐに見付かった。しかし凍り付いていてそのままではびくともしなかった。そこで<びしゃん>で叩いて氷を砕き、そしてバールを隙間に差し込んで、慎重にこじ開けた。
その先は、真っ暗な空間だった。氷窟の本道の照明から電気を引っ張り、LEDの仮設照明で照らしてみた彼女の視線の先にあったのは、三メートルほど廊下のような空間が続いた後、唐突に岩のような氷に閉ざされた光景だった。廊下がねじくれたように変形していることから、氷の圧力に負けて圧し潰されたものだと分かったのだった。




