市長
「なに…!、メイトだと…!?」
清見村の村長、美園からの報告を受けた折守市市長、舞華は、そこまで言って言葉を失っていた。メイトが発見されたとなればまさにこの世界がひっくり返るほどのことだ。扱いを誤ればパニックにもなりかねない。
なお、現在は、行政の重要な立場には殆ど女性が就いている。氷の檻に閉ざされたこの世界では外敵との戦乱などの心配がまるでなく、あくまで内部を穏やかに統率できればいいということで、女性の方が為政者に向いているという判断からそのようになっていた。
残された資源や生活の場を奪い合い血を流し合い、結果として一千万人もの人間の半数以上が、災害ではなく人間同士の争いによって失われたという過去を反省した故の選択という意味もある。閉じた世界で限りある資源をやりくりするのは女性が得意とするところという考えもあるのだろう。
実際、人間同士で争っている場合ではない。と言うか、外で喧嘩などして感情が昂り大きく息を吸ったりすればそれだけで死に至る危険性さえある環境では、そういう形で血の気の多い者は淘汰されていったというのもあった。
現在残されているのは、和を尊び互いに力を合わせてこの厳しい世界を生きていこうと考える者が殆どなのだ。
それでも、メイトがもたらすかもしれない情報や技術は、危ういバランスで成り立っている今の社会を根本から覆す可能性さえ秘めている。その扱いには慎重を期さなければいけなかった。
さっそく、市長直轄の鑑定士兼技術者を派遣し、そのメイトがどれだけのものなのかを見極めなければいけない。市長の舞華自身も己の目でそれを確認しなければと考え、コートを纏った。
「明日の公務はすべてキャンセルだ。この事態の対応に全力を傾ける…!」
現在五十一歳。既に平均寿命を超えて、次の市長に責務を引き継ぎ静かに余生を送ろうと考えていたところに舞い込んだ一大事に、舞華は苦笑いしか浮かんでこなかった。
『まさか私の代でこんなことになるとは……平穏無事でいたかっただけなのにな……』
それは、現市長の舞華に限った考えではなかっただろう。基本的にはそういう、穏やかな社会を望む者こそが長に選ばれる社会なのだ。
秘書三人を伴い、舞華は、装輪装甲車のような六輪車に乗り込み、美園達が乗ってきた履帯トラックの後をついて、千治の家へと向かった。
その頃、浅葱達は、重蔵の家で、興奮を紛らわす為に酒を酌み交わし、殆ど全員が酔い潰れて寝ていたのだった。




