第三種接近遭遇
惑星ハイシャインの人々が暮らす地下空間(折守市)に向かって坑道を降下する間の時間も無駄にすることなく、ひめは通信によって、現在の人々の暮らし、社会構造、風土、風習、価値観、メンタリティなどについて、自身の経験を基にフィーナQ3-Ver.2002らに伝えた。そしてそれは、通信機能を強化されたフローリアMM12によって衛星軌道上に待機中の旗艦ブーゲンビリア号にも伝えられる。
『これは…もはや<第三種接近遭遇>に等しいということか』
あらかじめ想定されていた状況とはあまりに乖離した内容に、フィーナQ3-Ver.2002が驚いたように思考する。そしてそれは、待機していた第二次捜索隊にとっても同じだった。
「極力トラブルにならないように対処せねばならん。今すぐシミュレーションを行い想定しうる事態に備えよ」
フォンサス・クラウチ大佐の命令が飛ぶ。それと同時に、ブーゲンビリア号、ライラック号それぞれに搭載された最新のAIによるシミュレーションが行われた。あまりに感覚や風習が異なる種族同士が出会うと思わぬトラブルに至る場合が考えられるからだ。今回のそれは、もはや<異星人との接触>と同等に扱われることとなる。
それにより、今回、特にトラブルがなければ、先方の撤収作業を含めても三十日ほどで収容が可能だろうと楽観視されていたものが、六十日をフルに使っても厳しいかもしれないという試算が出た。
惑星ハイシャインの住人の大半が完全に『他の惑星にも自分達と同じ人間がいる』という事実を忘れてしまっているとなれば、まずそこから受け入れてもらわなければならなくなるからだ。かつて自分達が地上に暮らし豊かな文明を持っていたらしいということまでは一部の人間には辛うじて伝わっているものの、それが宇宙さえ自由に行き来して他の惑星にまでちょっとした旅行気分で行けていたなどということは、完全にお伽話の中だけになっていたのだから。
「これは、一筋縄ではいかなさそうだ……」
フォンサス・クラウチ大佐はいかにも軍人といった印象のがっしりした顎を撫でさすりながら、困ったような表情をしつつ呟いた。それは、他の部隊員達も同感だっただろう。こうなれば、先に派遣したフィーナQ3-Ver.2002達の活躍に期待するしかない。
生身の人間では、人々の暮らし、社会構造、風土、風習、価値観、メンタリティのどれもが大きく違ってしまっている相手とすぐに打ち解けることは難しい。しかしAIを搭載したロボットは、どれほど相手が突拍子もない存在であっても、<そういうもの>としてそのまま認識し、その上でスムーズなコミュニケーションを取ることが可能であった。ましてや相手方にも<ひめ>というメイトギアが代表として存在している。
今回の救出作戦の成否は、まさに彼女達の働き次第ということになりそうであった。




