降下
「セルベリス軍政府直轄特殊事案対応部隊一課所属、コードナンバーKG18292641、機種名<フィーナQ3-Ver.2002>であります。ご無事でなによりです」
さすがに軍に配備されたメイトギアだけあって非常に堅苦しい敬礼と共にそう名乗ったフィーナQ3-Ver.2002に対し、ひめも彼女が知るタイプの敬礼を返し、
「惑星ハイシャイン、七万人の生存者に成り代わり感謝いたします」
と応えた。
しかしそれはあくまで人間の目に対する儀礼的な対応でしかない。その裏では既に相互通信によってデータのやり取りが行われ、ひめが知りうる限りの詳しい状況が伝えられた。
「それでは早速、我々も降下いたします」
フィーナQ3-Ver.2002がそう告げた時には、ひめが掘った坑道の上に櫓が立てられ、ワイヤーで降下する準備が整えられていた。
この辺りは、発声で情報交換するしかない人間とは違い、便利なところであろう。それもあって、メイトギアの部隊が先遣隊として下ろされたのである。
三千年の間にシステムがまったく互換性のないものに変わってしまっていても、通常通信だけはユニバーサル規格なこともあってなんとかなるのだ。暗号通信についてはそもそも次元が違うレベルにまで差が開いていた為に、全てオープンチャンネルになってしまうが。
と言っても、それをモニターできるのは第二次捜索隊だけであって、ハイシャインの住人側では傍受すら満足にできないだろう。
作業用の副腕を器用に使って坑道を降りるひめに続いて、先遣隊のメイトギア六機すべてがバックパックに収納されたワイヤーを使って降下した。人間の場合なら何人かは残るものかも知れないが、彼女達はメイトギアであり使い捨ても想定されている為、効率が優先されている。
この時、坑道の下では、残土の処理を手伝っていた子供達が、坑道に向かって風が吹いていることに戸惑っていた。トンネル効果により、生活圏で温められた空気が上へと向かって流れているのである。
逆に、坑道の壁を伝うようにして上の空気が流れ落ちてくる。七キロの坑道を下る間にある程度は温められるものの、落ちてくる空気はまるで個体のように硬ささえ感じるほどの冷たさだった。仮の<蓋>では完全に密閉できなかったのだ。
『熱が地表に逃げてしまいますね』
そう考えたひめの思考を受信したフィーナQ3-Ver.2002がイレーネLJ303に命じ、坑道の上に向かって、バルーンを放たせた。一気に膨らんだそれがさらに坑道を塞ぎ、気密性を高める。これで暖かい(と言ってもマイナス十数度だが)空気がマイナス百六十度の地表に逃げてしまうことも減るだろう。
バルーンで壁に押し付けられたワイヤーが偏るが、フィーナQ3-Ver.2002らはそれをものともせず降下を続けたのだった。




