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あさがお三型

地表の平均気温、マイナス百六十度。宇宙服を再利用した防寒着を纏っていなければ、恐らくメイトギアであるひめでさえ凍り付いてしまうであろう、極寒の地獄。


しかしそこは、まるで絵画のように美しい世界でもあった。ただしそれは、僅かな光でさえ増幅して見ることができるひめだからこそ見られる光景であったが。


「美しいですね……」


開いた穴から折守(おりかみ)市の熱と空気が抜けてしまわないように、用意していたテント生地のシートをアンカーで氷に固定し穴を塞ぎながらそう呟いた直後、彼女はハッと何かに気付いたように空を見上げた。そこにあるのは、大気さえ凍り地表に降り注いだが故にできた、宇宙を思わせる虚無の空間。


だがひめが見ているのはそこではなかった。その先にある、まさに宇宙空間である。


「この信号は……あさぎ2788……!?」


<あさぎ2788>。それは、<ねむりひめ>こと<あさぎ2788KMM>と同型機ということに他ならない。若干のバージョン違いはあったとしても、あさぎ2788の信号に違いなかった。それが宇宙空間から届いてくるのだ。地表に向けて増幅されて発信されているのが、ひめには分かった。


ひめがそれを受信し、そして返信する。


『こちら<あさぎ2788KMM>。応答願います』


その後、十数秒のタイムラグを経て、


『こちら<あさぎ2788TOS>。惑星調査用亜光速ロケット<あさがお三型三六六番機>オペレーターです』


「あさがお三型…!?」


ひめがそう声を上げたのも無理ないことかもしれない。何しろ<あさがお三型>と言えば、他でもないひめ自身がオペレーターとして搭載されていた亜光速ロケットそのものなのである。そしてひめのそれは、二一二番機だった。計画の詳細な内容についてはロックが掛けられていて思い出せないが、彼女がモニュメントのように扱われていた頃に報道として流れていた情報程度については、ひめと共に保管されていたメモリーカードから読み込んだそれで把握していた。


『何故…?』


と問い掛けるひめに、<あさぎ2788TOS>は答える。


『こちらの惑星ハイシャインが災害に見舞われた後、それを知った近隣の惑星の行政府が、ハイシャインの人々の生存が確認できれば救助に向かおうと、任務を終えた私とあさがお三型を観測衛星として配したのです。惑星ハイシャインから何らかの有意な電波が発せられたり、動体が観測された場合に、それを知らせる為に』


その答えに、ひめは思った。


『ああ、浅葱(あさぎ)様……あなた方は決して見捨てられた訳ではなかったのです。時間はかかってしまいましたが、こうしてチャンスは巡ってきたのです』


そして、


『こちら<あさぎ2788KMM>。惑星ハイシャインの住民、約七万人の生存を確認しています。彼女達は救援を必要としています。ご協力をお願いいたします』


と告げる。


『<あさぎ2788TOS>より<あさぎ2788KMM>へ、ただ今、超空間通信により、惑星セルベリスに救助を依頼しました。…返信を確認。ただちに救助隊を編成し、こちらに向かうとのことです』



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