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訪れた時

「今日はちょっと見てもらいたいものがあるんだ…」


作業を終えて坑道から下りてきたひめに、始閣(しかく)がバックパックから取り出したものがあった。それはファイルケースに挟まれた、何かの図案だった。


「俺の子供ができた時、使わせてやりたい」


そう言って彼が見せたのは、自らのフードについている赤いラインに浮かび上がる、女性のシルエットだった。その女性は裾の広がったスカートを穿いているように見える。


「お前をモチーフにしたものだ。これを子供に使わせてやりたいんだ」


真っ直ぐにひめを見詰め、始閣(しかく)は言った。ひめを尊敬するからこそ、彼女にあやかりたいという気持ちの表れだった。しかも、ひめをモチーフにした図案を持ってきたのは、始閣(しかく)だけではなかった。他の五人も、それぞれ、同じように自らを表す図案や飾りとひめのシルエットを掛け合わせたものを持ってきて、


「これを使ってもいいか?」


と彼女に尋ねたのである。


もちろんひめは、それらを心よく承諾した。


「私のようなものでよろしければ、どうぞお使いください」


そう承諾を貰えて、子供達は喜んだ。さらにはそれを見て、今現在、ひめの作業を手伝ってる子供達も、自分のマークにひめのシルエットをあしらったものに変えたり、同じように「子供ができたら使わせたい」と言ってきた。


そんな様子に、ひめは深く感謝を示す。


「本当に光栄です。ありがとうございます」


さらにその流れは、子供達だけでなく、大人の間にも広まっていった。やがて街や村のあちこちでひめのシルエットがあしらわれた様々なマークが出回るようになった。


『こんな風にしてもらえるなんて、メイトギア冥利に尽きるというものですね……』


この時、もしひめに感情が備わり、涙を流す機能でもあれば彼女は泣いていたかもしれない。感動して。


もしくは、あまりのフィーバーぶりに照れてしまって、困ってしまっていただろうか。


しかしいずれにせよ、それは人間達自身の素直な感情だったのだろう。不器用であるが故に、変な計算や目論見もなくただただひめに対する<想い>を形にしただけなのである。


そしてその想いに応えようとするかのように、ひめはさらに作業に打ち込んだ。作業用の六本の副腕も順調で、坑道は地表へと近付いていく。彼女に追い付くかと見えたシールドマシンさえ置き去りにして、さらに三年後、ついに、<その時>は訪れた。


約三千年の間、一切の動くものの姿がなかった惑星ハイシャインの地表に、正確には分厚い氷の表面に小さな穴が開き、そこから這い出す者がいた。


開螺(あくら)の宇宙服に身を包んだひめだった。


「これが、今の惑星ハイシャイン……」


彼女の視線の先に広がっていたのは、荒涼とした<氷の砂漠>であった。



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