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5話 another world 到着!

 ゲートを通っている間にいつの間にか目を閉じてしまっていたらしい。どことなく清清しい風を身体に感じて目を開く。目の前には、青々とした草原が、左右には森林が広がっていた。後ろを確認すると、何か石柱に囲まれた円形の儀式場のような場所があった。私はどうやらその中心に立っているらしい。ひとまず、そこから降り、周りを見渡す。

 ……なんとなく、さっきまで居た、あの場所に似ている気がする。まぁ、同じゲーム内なのだからそういうこともあるかと結論付け、大森さんにメールで連絡する。正直すぐにでもティファニアさんを探しに行きたい所だがあまりにも情報が少なすぎるし、そもそも、事前に大森さんに連絡する約束をしていたので、それを無視して探しに行く訳にはいかない。

 そんな事を考えていたら、メールはすぐに返ってきた。どうやら、大森さんはこの道を真っ直ぐに行った所にある町『グリムヒルド』の中央広場、噴水前で待っていてくれるようだ。少し、急いで行こう。

そう思って駆け出すと、地面を蹴る感覚に心が浮き立つ。その心地よい感覚に従ってより力強く地面をければ、どんどんと際限なく加速していく。いっそ、最速で町まで行ってみようか。そんな考えが起こる。


 「『加速』」


 その一言で私の身体は更なる速度上昇を見せる。周りで兎型の魔物相手に剣や魔法で戯れている他の人達を尻目に、私は現実では有り得ない速さで町まで走っていった。



**

 「すみません。お待たせしました!」


 無事に噴水前で待つ大森さんを見つけ、話しかける。この世界では現実の24倍の速さで時間が進む。私が手間取っていた間に、大森さんは大分待ったはずだ。怒っていないかと戦々恐々とした気持ちで表情を窺ってみると、大森さんは予想に反してポカンと口を開いていた。

 

 「あ、あの?」

 「あ、あぁ。随分速かったわねえ。さっきメールを貰ったばかりだと思ったのに」

 「全速力できましたから! おもいっきり走れて楽しかったです!」


 やっぱり、自分の足で走れるのって楽しい! ずっと、車椅子生活を余儀なくされていた反動か、今も足がうずうずしている。


 「ああ、良かったねえ。うん、とても良かった」


 何年も私のお世話をしてくれている大森さんだったから、私がどれだけ歩いたり走ったりしたいと思っていたか分かるんだろう。瞳を潤ませて、自分のことのように喜んでくれる。そうしてくれることが、本当にありがたく、嬉しいと思う。

 

 「あのですね。私、狼の獣人のランナーになったんです! この世界をあちこち走り回って、色んなものを見るんです!」

 「へぇ、そうなんだ。獣人族でランナーねぇ……ん? ランナー?」


 感慨深そうに、うんうんと頷いてくれていたのに、何故か疑問符がついた。どうしたんだろうか?


 「はい、ランナーです」

 「そ、そう……ランナー、ねぇ…………」


 大森さんは何か言いたげに口を開くが、すぐに口を閉じてしまう。本当にどうしたんだろう?


 「うん。まぁ、あなたには合ってるのかも知れないね。なら、何か言うのもやぼかねぇ」


 結局、自分で納得して、詳しくは教えてくれなかった。一体、何だったんだろう?


 「それじゃ、えーと、シーラちゃんだね? どんな風にしたのか教えてくれるかい?」


 気を取り直したように言う大森さんの言葉にぴんと背を伸ばす。シーラというのは私のこの世界での名前だ。頭上に名前が出るように設定してあるので、それを確認したのだろう。


 「はい。じゃあ、改めまして。狼の獣人族で、ランナーのシーラです。ステータスはスピードに全部振りました!」

 「……うん。全力で走り回る気だねぇ…………」


 大森さんは乾いた笑いを浮かべる。確かに、狼の獣人族(女)は魔法系の適正が低い代わりに、運動能力が高く、特にスピードが一級品の力を持っている。ランナーというクラスも「ただ走ること」に対して強化するスキルばかりを覚える職だ。さらに初期に割り振れるステータスのポイントをスピードに全てつぎ込んだ。こうして見ると確かに走ることしか考えてないように見える。


 「でも、初期スキルでそれ以外もちゃんと出来る様にしてますから!」


 私は胸を張って、自分が取得した初期スキルを告げた。初期スキルは、決められたポイントの中で始めにスキルを覚えられるというものだ。私は、スピードを高めて効率的にこの世界を回ることをコンセプトにして設定したが、この世界には敵である魔物も出現するという。ただ、足を速くした所で効率的に世界を回れるものではない。だから、初期スキルだけは身を守ることを重要視した設定にした。ゲームは初心者にしては、中々上手く設定できたのではないかと思う。

 なのに、何故か大森さんは頭を抱えた。


 「えぇと、どういう意図でこの設定にしたのかねぇ?」


 声には疲れが滲み出ている。大丈夫だろうか。結構なお年だし、身体は大事にして欲しい。もっとも、このゲーム内では、割りと幼い感じの少女の姿をしているようだが。


 「えぇと、まず『隠密』は敵に襲われないように隠れるためで、『逃げ足』はそれでも見つかった時に逃げるため『鷹の目』は周りの状況を調べるために、『跳躍』は縦にも活路を作れるのではないかと思ってつけて取りました!」


 どうだ。隙の無い布陣だろうと、少しばかり得意げになる。しかし、大森さんは悩ましげな溜め息を吐いた。


 「色々言いたいことはあるんだけどねぇ……一つだけ聞くよ。戦闘のスキルは一つも無しなのかい?」

 「ずっと家で寝ていた私が戦える訳ありません! 敵に会ったらすぐ逃げるを信条に頑張ろうと思います」


 正直、戦うなんて無理だと思うんだ。この世界にはドラゴンやら悪魔やらも出るらしいから、一介の女子高生(学校には行ってないが)が戦うなんて不可能に違いない。私は戦いは全力で避けて、探索を頑張ろうと考えている。

 しかし、大森さんは首を横に振った。


 「でもねぇ、敵を倒せないとレベルを上げるのはかなーり、厳しいわよぉ。一応そのクラスに合った行動、シーラちゃんの場合は『走る』ことをすることで少しずつ経験値は入るけど、正直敵を倒して上げる時に比べて十倍ぐらい時間が掛かるわよ?」

 「じゅっ、十倍!?」


 十倍って、そんなに!? 厳しすぎじゃない!?


 「それにねぇ、敵を倒せないと通れない道とかもあるから、もし遠くまで行くんだったら戦う術は絶対に必要になるわよ?」


 追い討ちとなるように続けられた大森さんの言葉に、私は膝を付き頭を垂れた。


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