16話 三日目
「おう、確かに受け取ったぜ。クエスト完了だ。お疲れさん」
私が『緑草』を提出すると、ギルドの人は愛想良く笑って労ってくれた。
ここは冒険ギルド第一課。私はクエスト終了するのを忘れていたことを今朝になって気付き、慌ててここに駆け込んだのだ。報酬金はしょぼかったが、初心者向けの依頼だったので仕方ないだろう。ついでに、別のクエストを探してみる。当然内容は採集系の物だ。その中の一つを手に持って見てみる。
【蓬莱花の採集:蓬莱花6本の採集。ランクは2以上。報酬260円。期限無し。失敗時、ペナルティ無し。】
うん、これにしよう。『蓬莱花』ならある場所も知ってるし、報酬は少ないかもしれないけど、スキルの強化のついでに行くなら丁度よさそう。
私は『蓬莱花』の採集依頼を受けてから、ギルドを出る。
今日はスキル強化をメインに行おうと思う。『加速』と『跳躍』のコンボはかなり有能な事が分かったし、新しいスキルもある。自分のスキルを確かめたり、強化したりする為に、私は草原に出た。
これから私がやることは簡単だ。『加速』を使って走り回り、途中『跳躍』も使いスキルを強化し、STが減ってきたら『スローペース』でST回復。回復中は『隠密』を使ってもいいかもしれない。どう考えてもST消耗のほうが大きいのだから、MP消費のみで使える『隠密』のレベル上げもやっておくといいだろう。
そう考えた私は、早速広い草原を駆け出した。
『加速』を使って走ると風を切る感触や、地面を蹴れば蹴るほど進む感覚がとても心地よくやみつきになる。けれど、今回はそれに加え『跳躍』を所々で混ぜる。そうすると、『加速』とはまた違う面白さを感じられる。
『加速』だと、基本的に一歩で進める距離は大して変わらず、またその速度も安定的である。逸れに対して『跳躍』スキルは、その一歩が大きく急速な加速を示す物だから堪らない。跳躍後はバランスを崩しやすい為、『加速』スキルを持っていても減速は免れないが、逆にその速度の変化を楽しむことが出来る。
さらに『跳躍』スキルの面白い所は一歩が大きくなる為、滞空時間が長くなり、まるで空を飛んでいるような気にさせてくれるのだ。私はすっかり『跳躍』スキルに嵌ってがんがん『跳躍』していると、
「わわっ!?」
あっと言う間にST切れを起こし、危く転びそうになった。私は仕方なしに『スローペース』を発動する。すると、身体が急激に重くなるのを感じた。ステータスを確認するとスピードが半分にまで落ち込んでいた。
私は若干じれったい思いをして、走っていたが、こうしてスピードが落ちた事で周りの景色を見る余裕が出来たことに気付いた。そうして、周りを見てみると、そこには豊かな自然とそこで命を育む生き物の姿があった。私は何となく気分が良くなり、『スローペース』の速度減少を最大にして通常時の10分の一まで速度を落として、周囲をじっくり見て回る事にした。
近くの草陰で何かが動いた気配がして、覗き見るとそこには兎がいた。とても可愛らしいのだけど、私に見つかったのに気付くと脱兎の如く逃げ出してしまった。その速さはかなりのもので、私でも追いつくのは困難そうで、しかも身体が小さく草陰に隠れる事も出来る事を考えると、もう一度会うのは難しいかなと私は思った。
兎に逃げられてしまったのは残念だったが、草原をゆっくりと走ってると、様々な動植物を見ることが出来、楽しかった。無論、動物の方は魔物で敵なのだろうが、別に無理に戦わなければいけない理由もない。
私はしっかりと気分をリフレッシュさせると、『スロースタート』によってSTが完全に回復したことを確認し、再び『加速』+『跳躍』の高機動ランニングを始めた。
しかし、今度は前回と使い方が異なる。『加速』を常時使っているのは変わらないが、今回は『跳躍』を散発ではなく、連続で使ってみた。実際、『跳躍』は勢いが強いので使用後にバランスを崩しやすいく、連続で使おうとするとそのままこけてしまう事が何度もあった。何度も足をもつれさせ、転び、ステータス上でもHPを削りながら、何度も挑戦する。
そして、諦めずに続けていくと跳躍後のバランスが崩れにくくなり、直ぐに続ける事は出来ないが、体勢を立て直し再び『跳躍』出来るまでの時間が短くなった。上達を肌で感じて、少しにやけてしまう。
段々とコツを掴みつつあったが残念ながらSTが切れ、再び『スローペース』を用いてゆっくりとジョギングし始める。
そうこうしている内に、『蓬莱花』の群生地に辿り着いた。早速採集を始める。採集にスピードのステータスは必要ないから、『スローペース』を掛けっ放しだ。その内、STもMPも全回復するだろう。
それはそうとして、私は昨日見つけられなかった青い『蓬莱花』や『サファイア・ローズ』を探すが、見つからない。まあ、レアなアイテムなのでそう簡単には見つからないだろう。私は諦めて普通の『蓬莱花』を採取した。
結構な量を採取した後、ステータスを見てST・MPが全回復しているのを確認すると、再び『加速』+『跳躍』の高機動ランニングを始める。
街に戻り、依頼を達成させてギルドを出るが、まだ日は高かった。なので、私は再び草原に出て、背の低い木が一本立っている場所に向った。草原を走っている内に見つけたそこは、アクティブエネミーの居ない安全なエリアで、スキルの強化にはもってこいの場所だった。
私はその木の前に立つと、『ただの木の棒』を構えて、それを木に叩き付ける。当然、パワーの無い私が『ただの木の棒』なんかで叩いた所で、木はびくともしない。だが、それでいいんだ。
私は気にする事無く、何度も木に棒を打ちつける。そう、これは『初級棒術』の強化だ。こうした武器スキルの強化は素振りや実際に物を切ったり叩いたりする事でレベルを上げることが出来る。当然、ただ振るよりも物を切ったり叩いたりする方が上達が早く、戦闘の中で用いればさらに早い。でも、私は戦闘はやりたくないからこうして木に棒を打ちに来たのだ。
そうして地道に木に棒を打ち続けて十数分。私は飽きてしまった。ただ、黙々と棒を振り続ける事の、なんて虚しいことか。『加速』や『跳躍』のような面白さが『初級棒術』には無いのだ。何とか出来ないものか。
うーんと、私は首を捻る。そして、数分後、閃く。
さっき『加速』と『跳躍』を重ねて楽しんでいたばかりだ。なら、『初級棒術』に他のスキルを組み合わせる事が出来るのではないか?
私は早速試してみる。
「まずは、『加速』と『初級棒術』っ」
私は木々から距離を取り『加速』して、一気に木に接近して棒を叩きつけた。
「次は『跳躍』と『初級棒術』っ」
再び距離を取り、その距離を『跳躍』で一歩で詰めて棒を叩きつける。『加速』との組み合わせよりスキが大きく、打った後もバランスを崩してしまった。けれど、瞬間速度では『加速』以上のものがある。
「最後は三つまとめて、いくよ」
先程と同じ距離を取り、『加速』『跳躍』を最大にして突っ込む。そして…………。
「きゃんっ!?」
思い切り顔面を木に強打してしまった。『加速』と『跳躍』を最大にすると、一歩の範囲が一気に大きくなるらしい。あの距離で使うできでは無かった。
痛みに目をしばらく目を白黒させてしまった。でも、『加速』と『跳躍』を組み合わせた踏み込みは、やはり凄まじい速さがあり魅力的だ。感覚を掴む為の調整が必要だが、やるだけの価値はあると思う。
とはいえ、今日はもう止めとこう。ぶつかった時のダメージでHPが消えかかってる。私は大人しくスキル強化の為に『加速』と『隠密』だけを掛け、再び棒を叩き続けた。
現在のステータス
シーラ LV8 獣人族
クラス ランナー サブクラス 無し
リンクアイテム 風の羽飾り
ただの木の棒
ステータス
HP 46/46 MP 15/15 ST 26/26
アタック13 インテリジャンス9 テクニック10
ディフェンス17 レジスト11 スピード125
スキル
クラススキル
加速22 移動速度上昇3 スローペース3
サブクラス
なし
パーソナルスキル
気配察知3 隠密5 逃げ足10 鷹の目1 跳躍7 初級棒術4
習得可能スキル -残りSPスキルポイント10-
クラススキル
なし
サブスキル
なし
パーソナルスキル
『挑発』 必要SP5