14話 成長
「へえー。思ったより上がっていたわねぇ」
大慌てでディアさんにチャットしたものの、返ってきたのはそんな気楽な返事だった。
「まあ、昨日の『森の熊さん』も『ワイルド・ボア』も、普通初心者が戦える相手じゃないからねぇ。その分、貰える経験値も多かったんだろうねぇ」
「……森の熊さんって…………」
絶句する私に、ディアさんは何でも無いように続けた。
「ん、あぁ、昨日の熊の魔物だよ。名前はアレだけど、外見はゴツイし、めちゃくちゃ強い。大体、必要なレベルが20位だったかな? 夜だったから、その倍は必要だったし、むしろあんな格上倒しておいてまだ一桁レベルっていうのが、普通有り得ないのだけれどねぇ……」
ディアさんが言うが、あれは逃げ回っていたら相手が自滅しただけだ。二回目は狙ってやったものの、むしろアレで経験値をもらえるのが不思議な位だ。
とはいえ、ディアさんもそこは分かっていたのだろう。続けてこう言った。
「ま、普通の戦い方してたら多分二桁は行ってただろうし、そんな急激にレベルが上がったって訳でも無いから安心しなさい。それより、SP手に入ったんだろ? だったら、新しくスキル取ったらどうかしら? 今、手に入るスキルってどうなってるかしら?」
ディアさんに言われ確認する。えぇと…………。
「クラススキルの『移動速度上昇』と『スローペース』。それとパーソナルスキルの『挑発』と『初級棒術』です。……あの、私どうして『挑発』なんてスキルが入ってるんでしょうか? 私、そんなことしてないのに……」
「あぁ、それね。『挑発』の習得可能条件は『一定以上のヘイトを一度に稼ぐこと』だからね」
「ヘイト?」
聞き慣れない単語に首を傾ければ、ディアさんは簡単に説明してくれる。
「まあ、簡単に言えばどれだけ敵意をもたれたって事かしら。当然ヘイトが高い方が魔物に狙われやすくなるの。それを利用して、『挑発』では自分のヘイトを大きく上げて、囮をして味方が攻撃されるのを防ぐことが出来るのよ」
「へえー、そうなんですか! あれ? でも、殆どソロの私だとどうなるんです?」
「あぁ~。うん。敵に沢山狙われるね。魔物も逃げたり、無視するんじゃなくてがんがん襲ってくるようになったり……かな?」
躊躇いがちのディアさんの言葉に、私はへこんだ。敵に狙われるとか……全然嬉しくない。
「あぁ~。でもソロで戦闘するなら、基本的にヘイトが自分に向うからスキルレベルは上がりやすいかも。このスキル。使わなくても、ヘイトを受けると経験値が入るのよね」
ディアさんが言うが、どんなにスキルレベルが上がった所で使い所の無いスキルだ。それに基本私は戦うつもりもない。『挑発』スキルは取らないで置こう。
「じゃあ、後は『初級棒術』『移動速度上昇』『スローペース』ね。取り合えず、『初級棒術』と『移動速度』は取っても問題無いというか、取るべきでしょうね。唯一の攻撃系スキルと確実に効果とレベル上昇の期待の出来るスキルだもの。問題は『スローペース』だけど……効果は分かる?」
ディアさんに言われ、画面を動かし、『スローペース』について調べてみる。すぐに情報を発見できたので、それを教える。
スローペース
発動中、スピードを制限する。制限の度合いに応じて、STの自然回復量を上昇させる。
「へー。有能なスキルねえ。ただ、タイミングを間違うと酷い目に合いそうだし、取るんだったら気を付けて使うといいわね」
私が『スローペース』について教えると、ディアさんは感心したような声を出した。私も頷き、そして、『初級棒術』『移動速度上昇』『スローペース』を習得した。SPを取っとく事も考えたが、今回のは例外にして戦いを避けるスタイルの私はレベルが上がりにくい。ゆえにスキルを強くして、SPを稼ぎ、新たなスキルを習得する。このサイクルを作っていかなければ、どうにもならない。なので、全くいらない『挑発』を除いて全て習得した。
「あっ、そうだ。ディアさん、エリアボスってなんですか?」
私はひとまず聞かなければならない事を聞いたので、単純な興味から質問した。
「あぁ、エリアボスっていうのは、まんまそのエリアのボスやってる魔物の事だよ。当然、エリア内では一番強いし、厄介な特性を持っている事も多い。だから、今回シーラちゃんが『ワイルド・ボア』を倒したのは本当に凄い事なんだよ」
凄いと言われても、全然実感が湧かない。私のしたことと言えば、川に落として、そのまま這い上がれないように落とし続けただけだからだ。そんな私の思いはともかく、聴きたいことは全部聞けたので満足してチャットを切り、素材を採取してから『加速』を利用して高速で街へと戻った。
軽く流してましたが、割と『挑発』を取得できるまでヘイトを稼ぐのは難しいです。大抵はその前に倒してしまうし、普通にやってるだけでは取得は難しいです。
猪を川に落とし、4時間もの間棒で落とし続けたシーラだから取得できたのです。
……まあ、ヘイトも溜まりますよね! 猪さん、マジ可哀想。