10話 記念写真
前回登場した自動地図ですが、スキルではなく、プレイヤーが全員使える基本の能力です。その効果はプレイヤーが通った後を地図として残す。また、現在地の確認、マップ上に手動で書き込める、マップ上にスクリーンショットなどを書き込めるなどです。一方で、自分の通った所しか表示されないので、一度も行ったことの無い所に行く時は、他のプレイヤーが作成した紙の地図が有効。ただ、楽しみが減るからと紙の地図を使わないプレイヤーも多い。
「うわぁ、綺麗!」
目の前に広がる花畑に感嘆の声が出る。緑草の群生地は、森の中にある開けた空間にあった。決して広い空間ではないが、森の中に一つ色取り取りの花々が一面に広がるこの景色は、それまでの木々に囲まれた空間との差も相まって開放感を感じさせてくれる。
この開放感溢れる空間は自分の心の凝り固まったところを解してくれるような気がする。ここで何も考えずに横になったらどれほど幸せだろうかと思うのだ。とはいえ、
「ここに緑草があるんですね! 早速ですが、採取しましょう!」
仕事を忘れる訳にはいかない。この空間を楽しむのはやるべきことをやってからにしよう。ディアさんに緑草や他の花々の見分け方などを聞きながら、採取を行う。
「よし。今日はこんなものかな。後は採取した品物を冒険者ギルドに届けるだけだね」
緑草は案外簡単に見つかった。その上で、お金になる植物や、役に立つ植物を採取して、ひとまずはお仕事タイムは終了。後はこの空間をしばらく楽しんでから街に戻るだけだ。
「この黄色い花可愛いわねえ。シーラちゃんに似合いそうね」
「そっ、そんなことないですよ~。あっ、この紫の花、気品があって格好良くて、ディアさんみたいですよ!」
「あら、ありがとう。……そうだ! シーラちゃん。こっちおいで」
「はーい! 何ですか、ディアさん」
女の子らしく、花を楽しんできゃっきゃうふふしていると、何かを思いついたのかディアさんが手招きをしてきた。言われるまま傍によると、そのままぎゅっとハグされ地面に寝転ばされた。
「えっ、えっ、ふぇぇぇっ!?」
地面に寝転ばされたといっても、そこは天然の自然のベットがあり痛くは無かった。だから、あるのは困惑だけである。絶賛大混乱中の私に構うことなく、ディアさんはいたずらっぽく微笑んで、何故か指でVサインを作った。
「ほら、シーラちゃん。ピースだよ、ピース。ほら、あっちに視線を向けて」
ディアさんが指をさすのは虚空で、私は何がなんだか分からないまま言うとおり、ディアさんと抱き合ったままピースサインを取った。途端、パシャリという音が聞こえて、ディアさんは身体を離してくれた。
「ごめんねなさいねぇ。でも、ほら、旅行に記念写真は基本じゃない?」
そう言いながら、ディアさんが見せてくれたのはシステムウインドウ。そこには顔を真っ赤にして抱きしめられたままピースサインを取る私と、悪戯気な微笑を浮かべるディアさんの写真があった。
「スクリーンショット。来る前に教えたでしょ?」
茶目っ気たっぷりに微笑むディアさん。スクリーンショットはこの世界での光景などを保存する撮影機能の事だ。これを用いれば、どんな時でもその時の光景を保存することが出来る。ただし、モラルを守らない場合は運営から罰を受けることもあるという。
「ふふっ、でもシーラちゃんこんな真っ赤になっちゃって。可愛いわねぇ」
くすくすと笑うディアさんに私は怒る。
「うぅ~。ひどいです。ずるいです。私も欲しいのに!」
「あら、そっち? てっきり無断で撮られたことを怒ると思ったのに」
呆気に取られた顔をするディアさんに、いや、呆れたような顔か。に、私は言う。
「怒った方が良いのは分かりますけど、ディアさんだから嫌じゃないし別にいいです。勝手に他の所に出すとかしたら怒るかもですけど……。それよりも! 私も記念写真欲しいです!!」
だって、折角二人でこんな綺麗な場所に来れたのだ。ぜひ、思い出に残したい。
私が言うと、ディアさんは困ったように笑った。それから、
「まったくもう。しょうがないわね。スクリーンショットは他の人にも送れるから、ほら、送ったわよ」
「えっ、あっ、本当だ! ありがとうございます」
ディアさんに言われ、システムを開いてみると、確かに新規のスクリーンショットが保存されていた。確認してみるとやっぱりそこには、顔を真っ赤にしてピースをする私と悪戯気な表情をした色取り取りの花のカーテンに横たわっていた。
「でも、私もっと欲しいです。一緒に記念写真、もっといいですか?」
当然のように了承してくれたディアさんに嬉しくなって、私達は結局日が傾くまでそこで二人スクリーンショットを取り捲った。