表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
託宣の御子  作者: 如月 宙(ソラ)
8/14

o。◈玉響◈。o 月のツユ、川のミヅ

ヒミコの最初で最後の川原での(みそぎ)





すぅぅ、はぁぁ、と大きく肩で呼吸してからもう一度、川原特有の少し水気の多い爽やかな空気を深く、吸い込んで止める。


それから目を閉じて素早く屈み、ザブッという音と共に、ヒミコは川の流れに身を沈めた。



コポコポコポ…と小さい泡が肌を辿って上り、水中に広がった髪が耳元をくすぐる。


次いでヒィーー・・・ィインと【ミヅ】の流れの音が、体に響き渡った。



ミヅの流れに身を任せて。


(ヰクラ)を鎮めて。


月から(くだ)されたツユに、心身を清めてもらう。




目を閉じたまま、眉間の少し上の辺りに集中して、(ヰクラ)の瞳をひらく。


ーー感覚と共に広がる視界。


そこは、どこまでも蒼翠に染まるミヅの世界だ。




自分の反対側の岸辺の岩の陰に、隠れて泳ぐのは小さな山女魚(ヤマメ)


疾い流れの下、川床の深みには岩魚(イワナ)の群れ。


陽当たりの良い浅瀬では、薄茶の水草に紛れて泳ぎの苦手な(カジカ)も居る。




ヒミコの解いた髪がユラユラと、流れのままに水中に揺蕩う。


少し先の早瀬には、白い泡が逆巻く川面が視え。


岸のほとりでは、水苔(カワナ)を生やした丸い岩を撫でるように、穏やかにミヅが過ぎていく。




ミヅの流れ行く先では無く、ヒミコは自分の居る広瀬から臨む淵を眺めた。


一見するとそこだけ揺りかごのように、水流は穏やか。

川魚がじっとしているそこは、それなりにミヅの気も濃い。



清らかに流れるミヅが常に多く在るその淵は、どこまでも光を通す高い透明度を保ちながら、輝く森の緑を全て集めたかのような、美しい翡翠色をしていた。



ーー清く澄んだ月の(ツユ)が、集まるところ…きれい……。



コポコポ、と自分の口や鼻から小さな気泡が上がるのを感じ、翡翠色をしたミヅの世界から呼吸のできる川面へ、ヒミコは仕方なく腰を上げた。




「ぷは」と口の中に留めていた空気を吐き出した。

早朝の柔らかい日差しの中で、止めていた呼吸をゆっくり整えていく。




蒼翠の視界は長い間の事のようでいて、その(じつ)ほんの一時のことなのだ。


サラサラ、ちゃぷちゃぷと自分の太ももの辺りで、新たに生まれた流れと水音が遊んでいる。



ーーカゼは心地良くて好き。

(ヰクラ)を優しく撫でてくれているようで。


ーーミヅの流れが視える瀬の音も、好き。

(ヰクラ)が清く洗われていくようで。




ミヅの中ならフワフワしているのに…と少し残念に思いつつ、ヒミコは緩慢な動きで着替えが置いてある川岸へ向かった。


水を含んで重くなった髪や衣が、ピッタリと体に張り付いたままなのは何とも具合が悪いのだ。



滑りやすい水中の足元は、小石が密集しているところを足裏の感覚で慎重に選びながら進み、どうにか岸へと無事、辿り着く。




「あなた、護長のところの……?大丈夫?怪我は、していない?」




髪を結い上げた見知らぬ若い女性が、衣が沢山重ねられた籠を両手で抱えながらも、心配そうに話しかけてきた。


その顔は少しだけ青ざめている。


髪の水気を両手で絞りながら、ヒミコはいつからこの女性は早朝の川原にいたのだろう、と考えた。




「あの。(みそぎ)……水浴びを、していたの」


「……みず、浴び?」



自分は禊のつもりでも、《水浴び》と言った方が分かりやすく伝わるかと思ったのだが。

女性のくりっと丸い瞳が、今は点になっている。


………川で溺れていたのでは、と誤解を招いてしまったようだった。



水辺を好む精霊が、周りの景色に重なるようにして川面の上に伸びた細い枝に腰掛け、クスクスと楽しそうに、そんな二人を見て笑っていた。





゜+o。◈。o+゜+o。◈。o+゜





イブキは言わずもがな、その女性ーーヨモギも、長女気質のしっかり者だった。


なかなかの心配性で、山郷育ちの年頃の女性らしく、なにかとヒミコには嬉しい事を教えてくれる。



名の由来になった《ヨモギ》は、綺麗な花を咲かせる野草ではないが、若葉を摘んで作ったお茶や団子は、香り豊かで美味しいらしい。


揉んで滲んだ葉液を肌に擦り付ければ、小さな傷や虫刺されに効く、万能な薬草なのだと。



ヒミコにとってミモザが母親代わりなら、ヨモギは時折会う姉のように、その後も接してくれたのである。





゜+o。◈。o+゜+o。◈。o+゜


イワナは専ら釣りで、カジカはモリで突いてましたね。(←男子が)


囲ってペットボトルの中に、まんまとカジカを誘導した事はあるよ!1匹様ご案内☆その後は友人の胃におさm…


……そんな想い出深い故郷の川原が、イメージ元です。

ヨモギ団子が食べたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ