第三十話「奥に潜む闇」− Heaven City side –
百年前、全ては崩壊した、ように見えた。
空も、海も、大地も、あらゆる生物、人間、絶対的だったはずの理さえ。
二百年前にも、この世界に崩壊は訪れていた。
しかし一人の救い人の犠牲によって、人間は己が過ちの裁きから逃れた。
百年前、悔い改めない人間に、再び裁きが下った。
しかしまた、多くの犠牲と、救い人の守護によって、“一部の人間”は終末から生き残った。
人間の過ちとは、罪とは、自分で自分を不幸に貶めること。
裁きとは、この世界を濡らす全ての悲しみが、溢れて溢れてしまったこと。
そしてそれは、我が主の涙でもある。
むしろ、主の涙でしかない。
ーー
少女は、真っ白な空間に一人佇んでいた。
白い壁に白い床、無数の器械で構成された白い装置。
時々はらりと少女の白い肩に落ちる黄金色だけが、この静謐な世界に色彩を持たせていた。
そして、こまやかなカタカタという音。
少女の白く細い指が、装置の薄いパネルを巧みに操作している音だけが、無音の世界で唯一、滞ることなく紡がれ続けていた。
彼女は、もはやそのシステムの一部となっていた。
ヘブンシティが、何の問題もなく円滑に回っていくための、機械。そのための論理的思考、冷静な判断、確実な分析。一見幼く見える少女は、カリスマ性にも似た天賦の才能と努力、そして‘‘百年’’の時間をかけて、今やその全てを手にしていた。
何の欠陥もない、完全な装置。
しかし、この閉鎖された絶望の街を守るには、“相応の犠牲”も必要だった。
機械の少女は、小さく呟いた。
「……お父様」と。
「お父様が恋しいか?」
いつも、何の前触れもなく降ってくる声に、少女は少し顔をしかめた。
しかしすぐに、その顔は無表情に戻り、ゆっくりと後ろを振り返る。
「お兄様。今は仕事中です」
そこには、案の定、自分の兄である男が、桃色の髪を揺らして立っていた。
兄は、いつものように、見る者を惹きつけるような、端正な笑みを浮かべている。
「兄様より仕事か?アモル。昔はお喋りで、あんなに可愛かったのに」
少女は男の顔を見ながら、すぐに、“彼が一人である”ことに気がついた。
「……今日は、どうなさったのですか。私に、何か御用ですか?」
少女がそう尋ねると、男は笑顔のまま、少女の方へ一歩ずつ近づいてくる。
「用というほどでもないんだけど、そういえば、君に誕生日プレゼントを渡していなかったと思ってさ」
「プレゼント?」
少女は丸い目をして、キョトンと首をかしげる。
「そうだよ。可愛い妹には、プレゼントをあげないとね」
悪戯っぽく笑う男に、少女は真顔のまま、何度か目を瞬かせた。
ーーお兄様から贈り物なんて、いつぶりだろう。
恐らくは、たまに発生する、単なる気まぐれか。
そう思案しながら、ぺこりと頭を下げる。
「……嬉しいです。ありがとうございます」
「ちゃんと、ありがとうを言える子は、いい子だよ」
男はそう言って、パチンと指を鳴らした。
すると、何もなかった白い空間に、少女の背丈の二倍ほどはある大きな立体が現れた。
円錐型の立体で、中は透明な液体で満たされている。さらにそこに、一つの影、いや、一人の人間がぽつりと浮かんでいるのが見えた。
「お兄様、これはいったい……」
よく見てみると、その人間は、少女より少し年上ぐらいの女の子だった。
彼女は、長い茶髪を水に漂わせて、静かに眠っている。
「昔、お前に人形を買ってあげたのは覚えてる?十歳の誕生日だったかな」
「はい、記憶しています。まだ私は幼く、人々をまとめる能力も持っておらず、街が混沌としていた時代でした。しかし、それといったい何の関係が?」
「あの頃、お前は肌身離さず、俺があげた人形を持っていたなぁと思ってね。今回はもっといい人形を用意したのさ」
「これは、人形ではなく人間です。お兄様」
「死んでいれば同じことさ、アモル」
「死んでいるのですか?」
少女は、液体に浮かぶ人間を、まじまじと見つめた。
眠っているだけで、とても死んでいるようには見えない。
「正確にいうと、仮死状態だね。きっと、目を覚ませば、君の良い話し相手になる。しかも、これはただの人間じゃない。ある種の“超能力”を持ってるんだ」
超能力。
未来を予知したり、物を宙に浮かせたり、体の一部を強化したりと、その種類は様々だが、どれをとっても神の力である“宝石の力”には劣る。
所謂、その力を持った超能力者たちは、東京がヘブンセントバリアという防壁に覆われる前から、日本や世界各地に存在していた。
後に外界から閉ざされることになる東京都は、本来超能力者の多く住む都市の一つだったが、ヘブンシティという閉鎖都市になった後は、犯罪や混乱の火種となり、また、“選ばれし子供たち”という神聖化された別の能力者たちの出現によって、差別視され、世間から疎まれてきた。
仮死状態のこの少女は、どうやらその超能力者であるらしいが、何にせよ、自分にとってどうでもいいことに変わりはない。
「この超能力者を、何のために私に?」
「もしかしたら、君の“友だち”になれるかもしれない、と思ってね」
「……友だち、ですか」
少女が興味なさげに呟くと、男はふっと微笑んだ。
「友は良いものだよ。それを知らずに死んでいくのは、あまりに口惜しいものだ」
そう言いながら、男は物憂げな横顔で、純白の機械を見上げていた。
少女はそれを一瞥して、また変わった形の水槽に目をやった。相変わらず、人間が深い眠りから覚める様子はない。
「私には必要ないと思いますが、お兄様がそこまで言われるなら、いただいておきます。しかし、この子と友になって、その後、私はどうすれば良いのですか?ここには私しかいませんし、私には街を守る義務があります。この子の世話をする暇はありません」
「世話は必要ないよ。機械が自動的にやってくれる。君はただ、時々この子と喋ってやればいい」
「……分かりました。お兄様」
少女が頷くと、男は少女の頭を優しく撫でた。
金色の細い髪が、まるで星のように輝きながら揺れる。
「いつか、きっとお前の役に立つよ」
「…………」
頭の上に乗った、温かい手のひらの感触に、少女は遠い昔の事を思い出す。
少女はなぜか哀しげな表情で、男から顔を背け、山積みにされた機械の方へ目を向けた。
彼女の前にある白い機械は、複雑に絡み合いながら、うねるように上へ上へと伸びている。
まるで、天にも届く塔のような装置には、最下部に何枚かの画面が備え付けられており、その画面には、人々で賑わう街の様子が次々と映し出されていた。
「……それはそうと、お話があるのです」
少女の声には、何の感情も伴っておらず、無機質で単調で、でも、だからこそ持ち得る一種の機械的な美しさがあった。
男はそれを慈しむように、すっと目を細めた。
「君が俺に?珍しいね」
「【黒眼】を外に出したことによって、はやくも街は悪い方向へ向かっています。お兄様は、全て任せておけば良いとおっしゃっていましたが、どうなさるおつもりなのですか」
少女が男に視線を投げると、当人はやれやれと肩をすくめて笑った。
「悪い方向じゃなくて、良い方向の間違いじゃない?全ては、俺の計画通りに進んでいるはずなんだけど」
「計画通り、と言われますが、以前より一層、科学者の残党たちが、ヘブンセントバリアについての研究を進めています。このままでは、ヘブンセントバリアの正体を突き止められるのも時間の問題です。それに、超能力者たちの動きも活発になってきていますし、近頃、我が協会内部にさえ亀裂が生じ始めています」
「……それが?」
男は大した反応もせず、ただ首を横に傾けた。
「かつてお父様は、私に、『人間を守るため、私はこの街の周りに防壁を創る。これによって、あなたは私に代わって人間を守らなくてはならない』と言われました。このヘブンセントバリア内で、人間を守り続けることが、私の使命であり、お父様の願いです。もし人間が、私を不信して、防壁を壊すようなことがあれば、お父様の悲願は全て、無に帰すことになるのですよ」
少女の声は、あくまで事務的なままだったが、語気は確実に強くなっている。それは、はたから見れば、男を責め立てているようにも見えた。
「……愚かな妹だ」
男の声色が、一気に低くなる。その声は冷ややかで、これまでの穏やかさは一切感じられなかった。
急な変化に、少女は目をパチクリさせる。
「お兄様……?」
「主の悲願は、いつまでも人間をこの膜に閉じ込めておくことではない。来たるべき時に門を叩けば、門は開かれる。我が主はそう言われたこともある。全ての言葉は、その言葉の裏にある意図まで読まなくては、本当の意味に気づけない」
「どういうことですか」
そう問いかけながら、少女は自身の鼓動が速まるのを感じた。
男の目が、こんなに冷たい色をしているのを、少女は今までに見たことがない。
「今ここにいない人を盲信するより、立派な脳みそがあるんだから、それを少しは生かせって言ってるんだよ。今は良いかもしれないが、あれもダメこれもダメと人間を縛り続けていれば、いつかは爆発するぞ」
「……それでも、この街から出ていくことは、許されません。先日“あの二人”を外へ出したのは、お兄様たちが仰ったので例外的に認めただけに過ぎません。本来、ヘブンセントバリアは、お父様が人間を守るために創られたものです。それを無視して出て行くような、お父様の偉業を愚弄するような行為を、私は決して許しません」
「お前の気持ちも分かるけどね、そんな完璧主義を貫いてるようじゃ、いつ反乱が起きてもおかしくないよ。一見平和そうに見えるけど、この街には、憎しみ、恨み、悲しみの匂いが、そこら中に充満している。争いが起こることこそ、我が主が最も危惧していたことだろう」
少女は男から目をそらし、また画面の方に目をやった。
そこには、やはり平和で穏やかな街並みが、延々と映し出されている。
少女は、はっきりとした口調で男に言った。
「お言葉ですが、それは、お兄様が“あの二人”を外に出したことによって起こったことなのではないですか?あの二人を外に出すためには、手段を選ばなかったようですし。技術の進んだ研究所の焼滅、カシマテルキなどの有力科学者の暗殺に留まらず、我が第一教会の協会員すらも殺戮……。私は、お兄様のしていることは何でも知っています。何も知らない、十歳の少女のままではありません」
男は少しの間黙っていたが、やがて少女の方に歩み寄ると、その小さな顎をぐいっと持ち上げた。
必然的に、目と目が合い、少女は思わず目を見開く。
男の顔は、相変わらずこの世のものとは思えないほどに美しかったが、その青い瞳は、醜いものを侮蔑するかのようにこちらを見下していた。
「高みから見下ろして、俺を監視してるつもり?前にも言ったけど、“あの二人”を外に出したのは、我が主の“摂理”を進めるためだ。そのためなら、俺は何だってするけど、そもそも“あの二人”を外に出す以前から、争いの火種はそこら中に転がっていた。お前が科学や芸術を抑圧したことによってね」
「……科学は、お父様が使われていた偉大な力です。その力を使って、お父様の偉業を超えようとする行為は許されません。また、芸術によって、外の世界に夢を見る愚民が増えても困ります」
「傲慢だな」
男の青い瞳が、至近距離で少女を見つめる。
「心外です」
少女は動じる様子もなく、そう返した。
少女の瞳もまた、澄んだ青い水底のようだった。
「アモル。お前は人間の扱い方を、全然分かってないな。ムチだけでは、人間は思い通りには動かない。時々アメもやらないと、いつか逃げるかこちらに歯向かってくるものだ。お前の場合、ムチばかり打って、まるで人間を牢に閉じ込めて飼い慣らしてるみたいだ」
「逃げるなら、逃げられないように囲いをし、歯向かってくるなら、歯向かってこれないようにより強力なムチを用意すれば良いだけでしょう。人間を飼い慣らすという表現が、適切だとは思いませんが、それはつまり、守っているということと同義であるはずです」
少女は何の躊躇いもなく、そう言い切るが、男は呆れた顔で首を振った。
「それは守っているとは言わないね。どちらかというと、“殺している”」
「けれど、“死んでいれば、同じこと”、なのでは?お兄様」
少女の言葉に、男は一瞬、顔を強張らせた。
が、すぐにへらりと気の抜けた笑みを浮かべ、少女の顎から指を離した。
「いつから、お前はそんなに反抗的になったのかな?自分が主の“代わり”だからって、これからは俺たち二人の言うことも無視して、本格的に独裁でもするつもりかい?」
男の瞳が、ぎらりと青く光る。
どこか禍々しくも見える輝きは、見つめていると、吸い込まれて、そのままどこかへ飛ばされてしまいそうだった。
この男は、もはや“自分の知っているお兄様”ではない。
何故、これほどまでに機嫌が悪いのかは分からないが、これ以上、彼の機嫌を損ねても良いことはない。むしろ、最悪の事態にもなりかねない。
少女は怪訝な顔をしていたが、それ以上の反論はせず、男に向かって丁寧に頭を下げた。
「……そんなつもりはありません。先ほどの言葉は撤回します。申し訳ありませんでした」
まだ、心臓のどくどくという音が聞こえている。
少女は顔を伏せたまま、そっと唾を飲み込んだ。
男は沈黙した後、少女に背を向けて何歩か歩いた。
そして、また元の落ち着いた声音でこう言った。
「街を守りたいなら、しばらく科学者も協会の連中も放っておくことだね。これ以上、規律やら法を増やしたところで、良い方向には動かない」
少女は顔を上げ、こくりと頷く。
「お兄様がそう言われるなら、そのようにします。しかし、いずれ反乱が起きるのも、私の予測の内です。反乱を抑え、国の秩序を守るために、アモル協会という存在があります」
「協会のガキでどうこうなる問題なら、いいけどね」と、男は全くあてにしていないといった風に言い捨てた。
ーーその“協会のガキ”を生み出しているのは、他でもないあなただというのに。
少女は微かに諦めの混じった顔で、兄の後ろ姿を見上げた。
「……独裁するつもりはありませんが、お兄様が何と言おうと、これ以上人間を外に出すことは許しません。それが、私の使命ですから」
「……もし、それでも出ようとする者が現れたら?」
「愚か者は、排除するまでです。これまで通り」
少女が迷いなくそう言うと、男はまた少しの間黙り込み、次にほくそ笑むように笑った。
「目的のためなら、手段を選ばない。人の命を守るはずが、その手で消している。それじゃ、お前は俺と同じだな」
男の笑顔は、まるで作り物のように端正だったが、底知れぬ闇が滲んでいるようにも見えた。
ーーこれが、本当にあの優しいお兄様なの?
以前とは、似ても似つかぬ雰囲気を纏っているこの男が、本当に自分の兄なのか、少女は未だに信じられずにいた。
少女は、白いワンピースの裾をぐっと握り、男の横顔を見上げた。
「今日は、何だかいつものお兄様ではないようです。そういえば、アンジュ兄様のお姿が見えませんが……」
アンジュ、という名前を出した瞬間、男の顔から笑顔が消えた。
そして一瞬で、男は少女の目の前まで詰め寄った。その勢いで、桃色の髪と、白いマントが、ふわりとはためく。
少女は思わず固まるが、男は近づいただけで、特に何もしない。
ただ、少女の目をじっと見つめ、低い声で囁いた。
「アイツは外に出たよ。言っておくけど、あの人間のことは俺とお前の秘密だ。アイツには言うなよ」
少女は男の背後にある、円錐型の水槽へ目を移した。
相変わらず、そこには一人の少女が静かに漂っている。
「どうして、ですか」
少女が尋ねると、男の瞳がまた淡く光り出した。
先ほどもそうだったが、この光には何か、相手を強制的に服従させるような力があるように感じる。
一種の催眠術か、あるいは全く別次元の能力か、はたまたただの気迫か。
「どうしても、だ」
男の威圧的な眼光に、少女は無言で目を見張った。
青い光が、水面のようにゆらゆらと揺れている。
その視線から、逃れたいのに、目が離せない。
ーー吸い込まれる。
「分かったね?」
男がそう言うと、少女は辛うじて、小さく頷いた。
するとようやく、少女の困惑した表情に気づいたのか、男はにっこりと顔に笑顔を貼りつけた。同時に、瞳の輝きも薄らいでいく。
「アンジュは頑固な奴だよ。俺も一緒に行くって言ったのに、一人で出て行ってしまった。まったく、最近すっかり平和ボケしちゃって、気が緩んでいるんだろうね……」
男は退屈そうに、天に向かって伸びをした。
何だか、今の彼からは、今にも全てが崩れてしまいそうな、危うい気配を感じる。
少女は逡巡した後、思い切って口を開いた。
「……ダーテ様。たしかお父様は、あなたとアンジュ様は、常に行動を共にするように言われていたはずです。一緒におられなくて、大丈夫なのですか」
しかし、ダーテはその問いには答えず、いつものように優しく微笑んで言った。
「君は、俺のしていることは何でも知っていると言っていたね。でも、知っているだけではダメだよ。いざという時に、きちんと行動しなければ、監視している意味がない」
意味深げな言葉に、少女は眉をひそめる。
「どういう意味、ですか」
「アンジュがいない以上、いざという時は、君が、俺を殺さないといけない。人間を守るために。その決断を、決して恐れてはいけない」
「……なぜ、私がお兄様を?」
微かに、声が震える。
自分が兄を殺すなど、あり得ない。
何故、ダーテが突然こんなことを言い出すのか、少女には分からなかった。
「俺は君の思っているほど、良いお兄様じゃないのさ。だって、ほら、“悪魔”だからね」
悪魔。
彼は時々、自分のことをそう言うが、彼の容貌を見れば、それは悪魔というより、むしろ天使のようだった。
その容貌だけでなく、人を魅了する言動も、仕草も、天使と表現した方が的確なように思える。
だが、先ほどの殺気を帯びた瞳には、確かにどこか邪悪なものを感じた。
あれが本性だというなら、その奥底に潜むものは、やはり悪魔なのだろうか。
ダーテとは、もう“百年以上”の長い付き合いだが、それでも少女は、彼の本質を未だに見極められずにいた。
「俺から、目を離したらいけないよ」
悪魔を自称する男は、そう言い残すと、薄紅色の髪をなびかせながら、真っ白な空間から消えていった。
少女はしばらくの間、男が立っていた場所を茫然と眺めていたが、やがて、また元のように、上へ連なる機械の方へ視線を移した。
ぐるぐると考え込んでいても仕方ない。
ただ自分は、これまで通り、より完璧に仕事をこなすだけ。
防壁の内側だけで、街を滞りなく回し、人々に不自由を与えず、全てを計画通りに進める。
私は街の核となり、脳となり、人間にとって良いものは与え、悪いものは排除する。
それを人々は望んでいるし、きっとお兄様も、お父様も、それを願っている。
そうやって、ヘブンシティは秩序を保ち、繁栄してきた。
これからも、それがずっと続くだけ。
いつまでも、いつまでも。
この機械仕掛けの脳みそが、体が、指が、動き続ける限り。
目を閉じたまま動かない、一人の少女を背に、アモルは淡々と、自身の業務を処理していった。




