第十八話「敵の存在」
ジールはせかせかとテーブルの上の皿を片付け、二人のために新しく食器を並べ始めた。綺麗に磨かれたグラスがシャンデリアの明かりを反射して仄かに輝く。
「何だか、すみません。兄は誰に対してもあんな感じなんです」
「いや、ああいうバカで分かりやすいタイプはむしろありがたいね。今のところ、何考えてるのか読めない奴ばかりと会ってるからな」
シモンは今までに会った面々を思い出して、憂鬱そうな顔をする。ジールは困ったように笑った。
「悪い方々ではないんですけどね」
シモンはさっそく、目の前にある料理を一口食べて頷いた。
「分かるさ、見れば」
「ジールさんも、こんなに親切だしね」
にっこりと笑いながらナツがそう言うと、ジールは食事の支度をする手を止め、少し下に俯いた。その顔はどこかバツが悪そうに見えた。
シモンはジールに目をやったが、大して興味はないのか、何事もなかったかのようにスプーンを動かす。
「どうしたんですか?」とナツが尋ねると、ジールは目を泳がせてから、おずおずと口を開いた。
「僕は今まで、人間は悪いものだと思い込んでいました。何となく、みんなが当たり前にそう言っていたし。でもナツさんとシモンさんに会ったとき、何だか、懐かしい匂いがしたんです」
「懐かしい匂い?」
二人はキョトンと首をかしげる。
ジールは恥ずかしそうに頭をかいた。
「あはは、おかしいですよね。忘れてください」
ナツとシモンは顔を見合わせる。
「……何の匂いかは知らないが、まあ俺たちも、外の世界の人外は、お前の兄貴みたいに凶暴なもんばかりだと思ってたからな」
「悪く思ってたのは、お互い様ですよ」
そう言って二人が笑うと、ジールも安心したように笑い返した。
食卓に灯った蝋燭の火が、辺りを鮮やかな橙色に照らしている。
「お二人は、結界の中にある人間の国から、やってきたんですよね」
大皿に盛り付けられた野菜のようなものを取り分けながら、ジールはふいにそう言った。
「結界の中にある、か。僕らは膜とかヘブンセントバリアって呼んでるんだけど、こっちの世界では結界と呼ぶのかな」
「はい。魔術師が身を守ったり、何かを保管する時などに使う魔術の一つですよ。人間の国を覆う結界は、世界一の魔術師でも破れない、とても強固な結界だと聞きます」
百年前、中に閉じ込められた人間たちがどんなに手を尽くしても破れなかった膜だが、外側からでもそれは同じだったということか。
とはいえ、この世界で一番の魔術師さえ破ることができないほど強固だとは。本当に、あの膜は一体何物なのだろう。
ナツが考え込むのを見て、ジールはそっと微笑んだ。
「そんな結界の中から出てくるなんて、きっと、たくさん苦労されたのでしょうね」
シモンは特に何に思い耽ることもなく「まあな」と返してから続けた。
「それより、この世界で人間の国ってのは結構有名なのか?」
「有名ですよ。といっても、伝説として、ですが。人間が目に見えない結界の中で生き残っているという話は、結構前に魔王様が唱えた一説なのですが、なにぶん目に見えないので、当時は信じない者も少なからずいました」
「今は?」
「皆信じるでしょう。だって実際に人間が、お二人がおられるのですから。きっとすぐにナツさんたちの存在は、この世界全体に知られます」
「世界全体に知られるって……」
ナツが困惑気味な表情をすると、ジールは小首を傾げた。
「ここでは、あなた方は世界でたった二人の人間の生き残りなんです。厳密に言えば、魔王様も人間の生き残りなのですが、魔王と名乗っている以上、もはや人間をやめてしまったようなものですから。……ジャパムスはお二人を隠すことに尽力しているようですが、世間にバレるのは時間の問題だと思います」
執事服の少年は全く悪気のない目でそう言った。
シモンは湯気の立つスープをゴクゴクと飲んで、息をついた。
「つまり、俺たちの存在によって、人間の国があるという魔王の話が真実だったと証明されたってことか」
「はい。魔王様が表に出てこなくなってから、しばらく人間の話は話題に上がっていませんでしたが、お二人が現れたこれからは、人異和解派と執行派の衝突は避けられないでしょうね……」
淡々とした口調の一方で、ジールの顔は微かに青ざめていた。
「人異和解派はジャパムスのことですよね。執行派とは?」
「あ、まだウォルカ様からお聞きになっていませんでしたか。……僕が話してよい内容なのか、分からないのですが」
ジールは困ったように二人から視線を逸らす。
「ここまで話しておいて、別にいいだろ」
シモンが続きを急かすと、ジールは渋々口を開いた。
「執行派というのは……お二人の気分を害するようでしたら申し訳ないのですが、人間を全滅させることが、神から与えられた使命だと解釈している多数派のことです」
「人間を全滅させる、使命……」
「へぇ、だから『執行』派ね。良いネーミングセンスだ」
シモンは嫌味を含めて小さく笑った。
「ちなみに、執行派という名前の由来は、吸血鬼の王族貴族で構成された【執行クラブ】にあります」
「執行クラブ……?」
聞き慣れない単語に、ナツは思わず聞き返す。
「吸血鬼の国を取りまとめている吸血鬼至上主義の組織で、そのトップは現吸血鬼王です。人間を全滅させるのに特に意欲的な組織で、お二人が来られる前からジャパムスとは思想の違いで対立していました」
「つまり、俺たちの敵でもある、と」
「はい。それに、獣族である僕や兄さんの敵でもあります。先に言った通り、執行クラブは吸血鬼至上主義で、獣族の奴隷化を率先して行っていますから」
そう語る紺碧の瞳は、落ち着いた光を湛えていた。
時計の針は刻々と時を刻み、長テーブルの上の蝋燭の火が、乾いた空気にゆらゆらと揺れている。
「ジャパムスと執行クラブじゃ、どっちが有力なのか分かるか?」
ふとシモンが問いかけると、ジールは逡巡してから自信なさげに答えた。
「……僭越ながら言わせていただきますと、恐らく、執行クラブでしょう。あちらは百年と続く組織ですが、ジャパムスは創立してまだ十年ほどの発展途上の組織ですし、中央都市国を人異和解派の味方につけたところで、吸血鬼王の地下帝国には勝てないと思われます」
「ほぅ、よく分かるな」
感心したようにシモンがジールを見ると、ジールの耳が僅かにピクピクと動いた。
「ウォルカ様が常々言っておられますので。あの方がおっしゃるには、これからジャパムスが、どこまでを味方につけるかが勝負だと」
「全てはこれからか」
シモンは気重そうに呟いた。
「そう、全てはこれからだ」
その声の方を見ると、開かれた扉の向こうから、ウォルカがこちらに向かってきていた。外にはねた灰色の髪が、歩くたびその肩に陰を落とす。
「ウォルカさん」
「ずいぶん遅かったな」
ウォルカがナツやシモンと待ち合わせたのは、13時だ。今はもう14時を回っている。
彼はのんびりと欠伸を手で押さえながら奥の席に座った。
「少し寝すぎた。どこぞの誰かのせいで寝不足でね」
「俺たちのこと?」
「いや、緑のエルフのことだ。まあ、確かに根本を辿れば、お前たちのせいでもあるわけだが」
「ありがとうございます。僕たちのために」
ナツが素直に礼を言うと、ウォルカは何度か瞬きをしてからコホンと咳をした。
「ところで、玄関のあれはゾイクがやったんだろう?」
そういえばと、二人は瓦礫の山と化していたロビーを思い出す。
すぐさまジールはウォルカにペコペコと頭を下げた。ゾイクが暴走した時にも見た光景だ。
「すみません。あとでもう一度僕から反省するように言っておきますので」
「ああ。天地がひっくり返る確率より、アイツが反省する確率の方が低いだろうがな」
「あんな派手に壊す力があるなら、蹴り一発じゃ足りなかったんじゃないか?」
ニヤニヤと笑いながらシモンがそう言うと、ウォルカは心底うんざりとした顔をした。
「バカには一発で十分だと思っていたが、慣れというのは想像以上に恐ろしいらしい。ゾイクの野郎に修復させると言ったが、アイツが二階の半分と一階の玄関全体を直すまで一体どれだけかかるんだか……」
心からのため息をついた後、ウォルカは懐からタバコを取り出し、火をつける。
「大変ですね……」
ウォルカの気苦労の多さを気の毒に思いながら、ナツはカップに注がれた茶を飲んだ。ハーブのような爽やかな風味があって美味しい。
すぐに飲み終わってしまうと、ジールはくすっと微笑んで、もう一杯注いでくれる。
「そうだ」
遠い目をしていたのも束の間、ウォルカは閃いたように突然顔を上げた。
「どうしたのですか、ウォルカ様」
「ジール、明日こいつらにも屋敷の構造図と道具を貸してやれ」
「「え?」」
キョトンとする三人の前に、ウォルカはタバコの先を突きつけた。
「ナツとシモンに、ゾイクが屋敷を修復するのを手伝ってもらう。その方が直るのは早いし、お互い親睦を深められる、人間の言葉でいう一石二鳥ってわけだ」
「一石二鳥じゃねえ。何で俺たちがそんなことに付き合わなきゃいけないんだ。俺たちは俺たちでやることがある」
即反論するシモンに、ウォルカは何食わぬ顔でタバコの煙を吐いた。
「それは屋敷が直った後にしてくれ。そもそも、アイツが暴走した原因はお前らにあるんだから」
「でも、ウォルカ様。兄さんがお二人と一緒にいて、また暴走でもしたらどうするのですか」
心配そうな顔をするジールに、ウォルカはあっさりと「その時はその時だ。うまく対処しろ」と返す。
そのてきとうな態度に、シモンは眉根を寄せた。
「は?ふざけるな。そんな勝手な言い分が通用するか」
「勝手なのはお前らだろう。人の屋敷に住むなら、それ相応の働きをするのが道理だ。それに、屋敷の外にはゾイク以上に厄介な敵がうじゃうじゃいるんだが、お前らはあのバカ一匹にも勝てないのか?」
小馬鹿にするように笑うウォルカに、シモンはチッと舌打ちをした。
「俺たちを保護するのが、あんたの仕事だろう」
「甘えるな、俺はレイフィアほど優しくない。請け負ったからには仕事をするが、呆気なく死んでいくヤツは死んでいかせるまでだ」
ウォルカは嘲笑うように、冷たくそう言い放った。
シモンは少し考えてから、納得した顔をする。
「へぇ。なるほど、確かに''あのバカ''の言い分も一理あるってわけだ」
「バカってゾイクのことか?何の話かは知らんが、お前ら二人だって、黙って大人しく保護される気はないんだろう?こちらとしても、黙って大人しく保護するつもりはねえのさ。それにこの屋敷の修復は、お前らの保護にも関わる。今回は従ってもらうぜ?」
ウォルカの有無を言わさぬ目に、隣に立っているジールも緊張気味にシモンの様子を伺っている。
「シモン、親切にしてもらってるんだから、僕らにできることは手伝おうよ」
ナツがこっそりと囁くと、シモンも仕方ないという風に肩をすくめた。
「……分かった。ゾイクが屋敷を直すのは手伝うってことでいいだろう」
「物分りが良くてありがたい。ガキはガキでも、どこぞのお姫様やバカとは違うな」
満足げな笑みを浮かべるウォルカに、シモンは水の入ったコップをゴンとテーブルに置いた。
「ただし、夕方6時以降は俺たちの好きにさせてもらう。修復に付き合うのは夕方6時までだ。これ以上の譲歩はない」
ウォルカはジールから受け取ったワインを手に乗せて、ゆっくりと回す。
「どうせアイツのなけなしの集中力はそこまで持たん。好きにすればいい。この屋敷をこれ以上壊さないならお前らが何やったって俺は構わねえ」
「成立だな」
ウォルカとシモンの間に流れる緊迫とした空気が溶け、ナツはホッと息をもらした。
この二人のギスギスとした関係は、これからも変わらないのだろうか。
ウォルカはジールに空になった食器を片付けさせ、二人の方を改めて見た。
「俺が来るまで何か話してたみたいだが、ジール、こいつらにどこまで話したんだ?」
「お二人が現れたことによって、執行派および執行クラブとの対立は避けられないだろうということを話していました。……僕には、出すぎた真似だと思ったのですが」
「それくらいはいいさ。クラブのことについては、これから嫌でも知らなきゃならねえからな」
「執行クラブって、どんなものなんですか?吸血鬼至上主義で、人間や獣族を差別しているとは聞きましたが」
ナツが尋ねると、ウォルカはワインを持ったまま席をたって、すぐ近くの窓辺まで歩いた。窓の向こうには、薄っすらとした暗がりが広がっているだけである。
「吸血鬼の王族や貴族……吸血鬼の国には古い身分制度が未だに残っていてな、執行クラブってのは要はお偉いさん七人とその配下で構成された組織だ。誇り高く、吸血鬼以外の民族を侮蔑していて、特に人間のことは食料としか思っていない。神から与えられた優れた力に自惚れ、神や他種族への感謝を忘れた成れの果てってわけだ」
「だが、お前もかつてはそこにいた。そうだろう?」
きっぱりとシモンの口から出てきた言葉に、ウォルカは少し驚いた顔をした。
「ウォルカさんが執行クラブにいたってこと?」とナツ。
「公爵の位なら、その組織に入っていてもおかしくないんじゃないかと思って」
そう言うシモンに、ウォルカは首を振った。
「いいや、推測じゃない。お前はさっき確信を持ってそれを言った。シモン、お前、何を知ってる?」
真っ直ぐな鋭い視線がシモンに突き刺さる。
シモンは黙ったまま、ウォルカの真紅の瞳を見返した。
「まあいい、別に隠すつもりもないからな。俺は確かに若い頃クラブに入っていたし、何なら前にここで会ったツクヨミは、一応だが今もクラブの一員だ」
「そ、そうだったんですか?」
見ると、そこには明らかに動揺しているジールの姿があった。
初耳だったような反応に、ナツは首を傾ける。
「知らなかったんですか、ジールさん」
「いえ、ツクヨミ様は知っていましたが、ウォルカ様が執行クラブに入っていたなんて、そんな話、長年付き添っているのに一度も聞いたことがありません」
「話す機会もないほど昔のことだ。クラブを抜けたのは八十年以上も前だからな」
何でもない顔で平然と話すウォルカに、ジールはよほどショックだったのか微かに肩を震わせている。
シモンはハッと軽く笑った。
「クラブにいたこと自体は知られてもいいけど、クラブから抜けた理由は知られたくない、といったところか。だから使用人にもクラブにいたことを黙ってたんだろう?」
「名推理だな」
ウォルカはやれやれとため息を吐く。
「それで、お前の''目''はどこまで知ってるんだ?」
右眼の眼帯を睨むように見られ、シモンは心外だと言わんばかりに片目を細めた。
「何も知らないし、知りたいとも思わないね。あんたの過去も、クラブを抜けた理由も。重要なのは今あんたがここにいることだ。まあ、この執事は知りたそうだけど」
シモンがジールを顎でしゃくると、ジールは慌ててウォルカに向かって手を合わせた。
「いえ、過去がどんなものであろうと、あなたへの忠誠は変わりません。これからもウォルカ様が話したいことだけ、話してくださればいいのです」
「よくここまで手懐けたもんだ」
シモンは呆れ半分でそう言う。
ウォルカはまた何かをごまかすように咳払いをすると、並んで座る二人を見て言った。
「……とにかくお前らは、今は執行クラブが最大の敵であり、ジャパムス以外のその他大勢も合わせると敵は腐るほどいるって事実を認識できていればいい。勝てるのか勝てないのかはお前らが考える必要はない」
「しかしながら、勝ち負けを気にしなくても生きていけるほど、いいご身分じゃないんでね」
シモンが棘を含んだ物言いで返すと、ウォルカは椅子に座り、神妙な顔つきで腕を組んだ。
「なら、お前らは幸運だったと言わざるを得ないな」
「幸運?」
「まず昨日、俺が一番最初にお前たちと出会ったというだけでも強運なのに、レイフィアはやけにお前らを気に入っているし、あの厳格の権化みたいなエルフ王さえお前らを許したというらしいからな。これ以上お前らにとって都合のいい、''勝ち目のある''状況は無いだろうよ」
「そんなに、運がいいんですか」
ここまで、ナツにとって運がよかったと思える事実はあまりない。
それに膜の外に出てから、当然のような流れでここまで事が運ばれてきたので、幸運だったとしても実感がわかない。
「運がいいというか、レイフィアが言うにはもはや''導き''だそうだ。あの無駄に広大な荒野で、お前らを待ち伏せる奴らが一体どれだけいたと思う?預言者によって人間の再来が予言されてから、吸血鬼陣は荒野の二百箇所以上を抑えていたし、都市国の傘下に入っていないエルフたちが八十箇所、いくらか獣族の奴らもいた。それに比べて、ジャパムスは俺を合わせて三人を荒野に送っただけなんだからな」
「ええ!?じゃあ僕らは、すごい確率を引き当てたんですねぇ」
びっくりするナツに、ウォルカもしみじみと頷く。
「お前らの確率なんて、80%で吸血鬼王への献上品にされるか、16%でエルフたちに殺されるか、3%で獣族に肉片にされるかだ」
シモンがむすっとした顔で口を挟む。
「俺たちが勝つ確率は1%ってことか?」
「お前たちが勝つ確率なんて0に決まってるだろう。野生の狼に傷を負わされる奴が、吸血鬼の軍やエルフの精鋭兵士たちにかなうわけがない。1%は、ジャパムスが見つける確率だ」
「ずいぶんと過小評価されてるわけだ」
「正当な評価だ。言わば、勝ち負けを気にできるほどいいご身分じゃねえってわけだ。そろそろお前らはその辺わきまえとけ。……話はこれまでだ」
ウォルカは立ち上がって、腕時計を見る。そろそろ16時になる頃だった。
ジールの耳元に口を寄せて小声で、
「明日の早朝、兄貴とこいつら二人にまず玄関の修復から始めさせろ。ちゃんとやってるか監視しながら、飯を食わせて、夕方6時に俺にどこまで終わったか報告だ。分かったな」
と話すと、ジールは真剣な表情で「分かりました」と相槌をうった。
ウォルカはさりげなくジールの頭をポンポンと叩いてから、二人に「何とか生き延びろよ」と残し、颯爽と食堂を出て行った。
シモンはまた舌打ちしながら、「言いたいこと好き勝手言いやがって」とぶつくさ文句を言っている。
ナツはそれでもウォルカが悪い人には見えなかったし、シモンも口では嫌っているが内心嫌いにはなれていないと分かっていた。
そしてナツにとって、【執行クラブ】という初めて聞いた敵の名前は、忘れはしないものの、あまり胸に響いてもこなかった。今はただ目の前にいる人々、いや人外たちに親しみとも呼べる興味があるだけだった。
ジールの紺色の瞳とナツの目が合うと、犬の耳が生えた少年は少し照れるように笑った。