表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

荒牧小梅の事情 ~過去~

【作者より】

このお話は『杜坂東の事情』のサイドストーリー、小話的なものです。

読まなくても大体の話は分かりますが、読んでおくと物語がより楽しめる……かもしれません。


本文は以下から始まります。


---------------------------


私は昔から、他人より言動が少し遅かった。

保育園でも、他の子と話そうとしても「小梅ちゃんおはなしするの遅いからおはなししたくなーい!」と避けられる為、一人でいる事が多かった。

家でもそうだった。お父さんやお母さんに話しかけようとしても「今忙しいから」と無視される。

だから私は、家でも外でも、話すという事をしなくなってしまった。

小学校の時もそうだった。話すのが遅いから、皆に嫌われるから、話さない。そんな日々が続いていた。


それではいけない。そう思ったのは中学1年生の頃。

――そう。両親の心中自殺に巻き込まれた、あの日からだった。


両親は、家の浴室で練炭自殺をしていた。

私はただ両親に呼ばれて浴室へ一緒についていっただけで、まさか心中自殺に巻き込まれるとは思わなかった。

幸い私は、昏睡状態になるギリギリの所でその場を離れ、生き残る事が出来たのだが、両親は――死亡。

その後の葬儀で、『誰が荒牧小梅を両親の代わりに育てるか』という話になった。

名乗りでる者は――誰一人いなかった。

当たり前だ。私が人より言動が遅いから。その所為でイライラする親戚も多くいただろう。

そんな中、親戚の一人が声を荒げて言った。

「そもそも、恭治と薫子さんが自殺したのは、あの娘の所為じゃないのか!?」

それが引きがねになったのか、親戚達も口々に「そうだ」「あいつの所為だ」「あんな出来の悪い子を産んだから」と、私の悪口を、私の目の前で言い始めた。

私は、だんだんその場にいられなくなって、「トイレに行ってきますー」とその場を離れた。


――『トイレに行ってくる』というのは、当然嘘だ。

私はそのまま、両親の葬儀から『逃げた』のだ。


本当はそんな事してはいけないと分かっていたんだけど、その時の私には辛い葬儀でしかなかった。だから、『逃げた』。

親戚達の声が、頭の中で繰り返される。

――お前の所為だ。

――お前の所為で恭治も薫子も死んだ。

そんな言葉を振り払うかのように、私はただ、走った。



後日、担任の先生にその事を相談すると、先生は「父がアパートの大家さんやってるから、そこに住まないか?」と勧められた。私は勿論承諾し、以降、そこに住み始めた。

だが、それでも人と話すのは怖かった。親戚達のような事を言われてしまうのが怖くて。それでも話さなければならないと思い、私は必要な事だけは話せるようになった。

だが、世間話や趣味の話などは、当時はまだできなかった。


――そんな私を変えてくれたのは、『新見博』君だった。


昼休みに、私が一人で中庭で過ごしていると、「先輩ー?」と博君が話しかけてきた。

「先輩一人っスか? 俺、隣座っていいッスか?」

私が「いいですよー?」と返事をすると、博君は明るい笑顔で「おっじゃましまーっす!」と私の隣に座った。そして。

「さっきの返事もそうだったんスけど、先輩って喋るの遅いッスね?」

そう言われた。恐らくはっきり言う子なんだろうけど、あまり気分が良くはなかった。

私は一つため息を吐いて、博君に返した。

「……すみませんー。私ー、いつもこうでー……」

すると、博君はキョトンとした顔で私の方を見て一言、言った。

「へ? なんで謝るんスか?」

「……はい?」

私の想像とは全く真逆の返事に、私もキョトンとしていると、博君はニッと笑って言った。

「俺は好きッスよ、先輩の話し方!」

「……え?」

「だって、一言一言が聞き取りやすいし、なんか落ち着きますもん!」

博君の言葉に、私は驚きすぎて何度も瞬きした。

そんな事言われたのは、多分初めてだ。今まで優しくしてくれた人にも、そんな事言われた事はなかった。

初めて言われた言葉。――ずっと、言われたかった、言葉。

「……って、え!? えっ、先輩、なんで泣いてるんスか!?」

いつの間にか私は泣いていたようで、博君はそう言いながら慌てた。

気づいた私が涙をぬぐっていると、博君は申し訳なさそうに言った。

「あの、すみません! 俺、何か傷つけるような事を……! あっもしかして気にしてたんスか!?」

私は、首を横に振った後、再び博君の方を見て言った。

「私ー、嬉しかったんですー。そんな事言われたのー、初めてでー。……一番、言われたかった、事でー」

博君は、またキョトンとした顔で私を見ていた。が、その後「なら、良かったッス」とあの明るい笑顔で言った。


その後から、私は色んな人と話すようになった。今まで話してくれなかった保育園から一緒だった子達も、私が諦めずに話しかけていったら、だんだん話してくれるようになった。

暫くして、博君が、彼の幼馴染らしい『松伏麻里亜』さんをつれてきて紹介してくれた。

以降、私は博君や麻里亜さんと3人で過ごす事が多くなった。私が書道部の話をした翌日には、麻里亜さんが入部してくれた。

――博君のおかげで、私には友達がいっぱいできた。


だから、私は今、凄く『幸せ』なのだ。


【荒牧小梅の事情 ~過去~ 完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ