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第2話 前編(視点:荒牧小梅)

「んー……困りましたねー……」

そう呟きながら、私は後ろからついてきている白い着物の女の子を見た。女の子はニコッと笑みを浮かべながら、私を見て首を傾げる。

その様子を見ながら、私は再び「うーん……」と唸った。


そもそも何故こんな状況になっているのか。それはほんの数十分前にさかのぼる。

私がいつも登校しているルートにある信号に到着すると、その白い着物の女の子がそこにいた。

押しボタン式の信号であることに気づいていないのか、一向に変わる気配のない信号と行きかう車にきょろきょろしている。

「あらあらー」

私はそう言いながら信号機に近づくと、柱についているボタンを押した。

当然、信号は青に変わり、さっきまで行きかっていた車達が一斉に止まる。

「これで、貴方もー、渡れるようになったでしょうー?」

私は白い着物の女の子にそういうと、そのまま信号を渡り、学校へと向かった。


……で、今に至る。私が何度「ついてきてはいけない」と言っても、女の子は私から離れる気配もなく、ただついてきていた。私の言葉は通じていないのだろうか。

そんな事を考えていると、いつの間にか学校の近くまで来ていた。と同時に、前方に見える道から博君と麻里亜さんが歩いてきているのが見えた。

向こうもこちらに気づいたのか。博君が手を振りながら駆け寄ってくる。

「荒牧先輩、おはようございます!」

「……おはようございます」

そう挨拶してくる二人に、私も「おはようー」と返した。この二人は挨拶一つするだけでもそれぞれの性格っが分かりやすく出てくるから面白い。

すると、博君が「あれ?」と本来なら誰もいないはずの私の後ろを見て言った。

「先輩、その子は?」

「ああー……。今朝ー、押しボタン式信号が分からなかったようでー、私が代わりに押してあげたらー、それからついてきてしまってー」

私がそう話すと、「そんな事で?」と麻里亜さんが首を傾げながら言った。

確かに、単に押しボタン式信号のボタンを代わりに押してあげただけで、ここまでついてくるわけがない。お礼を言うだけで良いはずだ。なのに何故?

「それに……、その子、私には『視えない』のですが」

「……え?」

麻里亜さんの言葉に、私は思わず後ろを見た。

白い着物の少女は、相変わらずそこにいる。私の方をじっと見ている。……が、麻里亜さんには彼女の姿が視えない。と、いうことは。

「……『幽霊』?」

私がそう呟くと、声が聞こえてきた。

「否、それとはまた違うぞ」

「うおっ!?」

その声に振り向くと、いつの間にか博君の後ろに『坂杜様』が人間の姿でそこにいた。

「『坂杜様』!? 脅かすんじゃねーよもーう!」

博君がそう言うと、「脅かした心算は無い」と返し、続けて言った。

「荒牧、その白い着物の少女、貴様の傍にいる間は大事に接しろよ」

「え? どういう事ですー?」

私がそう聞くと、『坂杜様』はこう返した。

「そいつは、『座敷童子』だ」

「『座敷童子』ってー……、あのー、見た人にはー、幸せが訪れるというー?」

私がそう聞くと、『坂杜様』は「そうだ」と頷いた。

「恐らくそいつは、お礼に荒牧に幸せを与えようとしておるのだろうな。だから、貴様についてきた」

――『幸せを与えようと』。

私が『座敷童子』の方を再び見ると、『座敷童子』は私の方をじっと見て首を傾げた。

暫く見つめ続けているとチャイムが鳴り、その場にいた全員が慌てて自分の教室へと向かった。



――授業が終わり、部活も終わって、私は博君や麻里亜さんと一緒に下校していた。

「そういや、まだついてきてるんスね、『座敷童子』」

博君はそう言いながら、私の後ろをついてきているであろう『座敷童子』の方を見た。

それに麻里亜さんが「危ないから前を見て歩け」と注意し、続けて私にこう聞いた。

「そういや、荒牧先輩にとっての『幸せ』ってなんですか?」

「はあー、私にとっての『幸せ』、ですかー?」

私はすぐに答えられず、暫く「うーん」と考えた後、いつもの笑みで答えた。

「やっぱりー、博君やー、麻里亜さんとー、一緒にいる事でしょうかー」

「マジッスか? ……じゃあ、今荒牧先輩は既に『幸せ』って事ッスね!」

博君はそう返した後、「なんか、すげえ照れるんスけど」と片頬を指でかきながら笑った。

そんな博君の顔に、私は素直に微笑むことが出来なかった。

――なぜなら、本当は、わからなかったからだ。

自分にとっての『幸せ』が、一体何なのか。何が、私にとって一番の『幸せ』と言えるのか。

勿論、博君や麻里亜さん、佐藤先生や校長先生、それに『坂杜様』やクラスの皆、部活のメンバー達と一緒にいるのは楽しい。だが、それが本当に『幸せ』なのかと聞かれると、すぐには答えられない。

今この瞬間が『幸せ』なのだとしたら、『座敷童子』は既にいなくなっているはずなのだ。

……それとも、私に『親がいない』事が関係しているのだろうか?

そんな事を考えていると、いつの間にかT字路に到着していたようで、私は博君や麻里亜さんに別れの挨拶を告げた後、自分の帰る方向へと歩いていった。


自分の住んでいるアパートに到着すると、大家さんが丁度花壇の手入れをしている所だった。

「おや、おかえり小梅ちゃん」

「ただいま戻りましたー」

挨拶してきた大家さんにそう返すと、私は自分の部屋に入った。

――私には、両親がいない。

中学1年生の頃、両親の心中自殺に巻き込まれ、私は一度死にかけた。奇跡的に命に別状はなかったけれど、両親は死亡。

両親の葬式の際、『誰が荒牧小梅を両親の代わりに育てるか』という話になったのだが、親戚は誰一人として名乗り出ようとしなかった。無理もない。私があまりにゆったりしすぎるのだ。動きもしゃべり方も、全てが人より少し遅い。その所為でイライラする親戚も多かった。

その事を担任に相談すると、その担任のお父さんが今住んでいるアパートの大家さんという事で、担任に話してもらって、今このアパートに住んでいる。

「……もしかしてー、私は、本当はー、望んでいるのでしょうかー」

――『お父さんと、お母さんが、欲しい』と。

私はまた、『座敷童子』の方を見た。『座敷童子』は私の隣に正座して、じっと座っている。

……そういえば、『座敷童子』はイタズラ好きだと聞いた事があるような気がしたんだけど。

そんな事を考えていると、インターホンが鳴った。

「おやー? どなたでしょうー?」

私は「はーい」とドアに近づき、ドアを開けた。

「おやー? 珍しいお客様ですねー?」

私はそう言いながら首を傾げた。

「お久しぶりです、小梅さん」

そこにいたのは――私の親戚の一人である、『後藤瀧太郎』さんだった。


【第2話 後編へ続く】

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