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第1話 後編(視点:松伏麻里亜)

「化け物って、どういう事だ新見……!」

新見に手を引かれて走りながら、私はそう聞いた。

新見は「知らねえよ!」と返し、続けてこう言った。

「知らねえけど、なんか、でっかい犬みたいなやつが追ってきてんだよ! 黒くてでっかい犬! いや、あれ犬か? 犬なのか!?」

「私に聞くんじゃない!」

新見の言葉にそう返すと、新見は「くっそー!!」と言いながらなおも走った。

恐らくその片方の手には、『花子さん』の手が握られているのだろう。

私はふと後ろを見た。荒牧先輩も走って追ってきているようだった。

私にはその後ろにいる『化け物』が視えなかった。だが、新見や荒牧先輩が言うんだ。きっとそこに『居る』、そして『追ってきている』のだろう。

唯々必死で、必死で逃げた。


暫く逃げていると、学校の近くにある湖のほとりに到着した。

そこは一応昔からあったらしいが、滅多に来る人はいないといわれる湖だ。そこそこ広く閑散としている為か、どこか寂しささえ感じる。

とはいえ、ここで立ち止まっているわけにはいかないのだが。

「……えっ?」

ふと、新見が『花子さん』とつないでいたであろう手の方を見てそう言った。

「どうした、新見?」

私がそう聞くと、新見は私達の方を向いて言った。

「……『花子さん』、この湖の事、『知ってる』って」

「『知ってる』……?」

私がそう聞き返すと、新見はコクッと頷いた。

と、今度は荒牧先輩が「あらー?」と口を開いた。

「どうしたんですか、荒牧先輩?」

「あの『犬』……、急にあそこからー動かなくなりましたー。私達の方ー、じっと見てるだけですー」

そう言いながら、荒牧先輩は先程まで追ってきていたはずの『化け物』の方を見た。

……無論、私には見えないのだが。ただ、いや、まさか。

「……もしかして、あいつ、ここに辿りつくように『わざと追ってきた』?」

私がそう呟くと、後ろから『化け物』の代わりに新見が答えた。

「どうやら、そうらしいぞ」

その声に振り向き――私は思わず「ひっ」と悲鳴をあげた。


新見の手には――誰かの『白骨死体』が握られていたのだ。


「おま……、何を持っているんだお前は!?」

私がそう聞くと、新見は「そう驚くなよ」と呆れ顔で言い、その後続けた。

「この『白骨死体』。もう何十年も経ってるからこの状態なんだけどな、『園田花子』のもので間違いないらしい。……『本人』が、そう言ってた。多分あいつも、この『園田花子の白骨死体』を見つけてほしかったんだよ、俺等に。……そうだろ?」

そう言って、新見は先程私達が逃げてきた方を見た。おそらく最後の「そうだろ?」は、あの『化け物』に対して投げかけた問いだろう。私には聞こえていなかったが、『化け物』はおそらく何かしらの返事をしたろう。

しばらくして、新見が何やら屈んで話し始めた。数分後、新見は一つため息を吐いてから、再び立ち上がって一言、言った。

「大丈夫。あの子はちゃんと『成仏』してくれたぞ。だから、お前ももういい。……『飼い主』の所へ、一緒に行っておいで」

その言葉は、おそらくあの『化け物』に言ったものだろう。

暫くして、新見は再びため息を吐いて言った。

「……っし。これでもう大丈夫だろ、あの子も、あの犬も」

その言葉に、荒牧先輩が「それは良かったですー」と安心した様子で返した。



一度学校に戻り荷物をまとめた後、私達はすっかり暗くなってしまったからと、佐藤先生の車で全員送ってもらった。

その車内で、新見は『花子さん』の話をしてくれた。

「あの子、研究所にいた子だったっつったじゃん? でも、あの子は研究材料にされて亡くなったわけじゃなかったんだ。あの子が亡くなったのは本当に不運な事故。研究所で預かっていた黒犬の散歩をしてたらあの湖を見つけて、遊んでたら足を滑らせて溺れちゃったんだって。黒犬はその子を助けようとしたんだけど、その内自分も体力の限界になっちゃって、結局一緒に亡くなっちゃったんだと」

「それじゃあー、あの『大きな犬』はー」

荒牧先輩がそう返すと、新見は「そう」と返事をして続けた。

「湖で溺れた『園田花子』を、必死で助けようとした、その『黒犬』だったんだ。あの子、その黒犬を育てる係だったって言ってたから、多分それであの子と黒犬の間に絆が生まれてたのかもしれない」

新見がそう言うと、佐藤先生が「そうだな」と返事をした。

「人と人の間に絆が生まれるのと同じように、人と犬、人と猫……それだけじゃないかもしれないけど、大事に育てていればその分絆が生まれる、そういうもんじゃねえかな」

私は話を聞きながら、佐藤先生の車の窓から外を見た。

そう言えば、絆とかそういうの、考えた事がなかった。そういうのは、いつの間にか生まれてるものだと思っていたから。新見との絆も、荒牧先輩との絆も。偶然出会って、いつの間にか仲良くなって、いつの間にか一緒にいて。そして、いつの間にか――。

(……否)

私はそっと目を閉じ、その先の事は考えない事にした。



【第1話 後日談に続く】

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