エピローグ(視点:????)
あれから、数ヶ月が経った。
童子切骸によって破壊された祠も、すっかり元通りに修繕され、弱まっていた杜坂東中学校の結界の力も元に戻っていた。否、寧ろ以前より強力になった気もする。
平和な日常が戻った杜坂東。その日常を少し覗いてみるとしよう。
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―某日、隣町の駅前にて。
少しおしゃれをして待ち合わせをしている少女が1人いた。松伏麻里亜だ。
松伏は時々携帯を見ながら、何度か溜息を吐いている。
すると、そこに1人の男が駆け寄ってきた。
「悪い悪い! 待たせたな!」
「……遅い。5分遅刻だぞ」
男の言葉に松伏がそう返すと、男は更に「悪い!」と両手を合わせた。
男は、鬼丸源馬。祠が壊された日にその場にいた人物だ。松伏はその日彼と対峙して、勝利した。
恐らくそれがきっかけだったのだろう。なんと2人は付き合い始めていたのだ。
「いやー初デートって何着てくれば良いのかわかんなくてさ! 悩んでたら遅くなった! なあ、お詫びに今日は麻里亜の好きなとこに行っていいからさ! 機嫌直してくれよー、な? な?」
鬼丸がそう言うと、松伏はまたひとつ溜息を吐いてから一言、言った。
「……あそこ」
「……ん?」
松伏が指差した方を、鬼丸も見る。そこに見えたのは、おしゃれな雰囲気のカフェだった。
松伏はそっと指を降ろすと、再び口を開いた。
「……あそこのパンケーキが凄く美味しいと聞いた。ずっと気になっていたのだが、行きづらくてな」
すると、何かを勘付いたらしい鬼丸が「あっ!」と返した。
「それじゃあそこ行こうぜ! なんならその美味しいって噂のパンケーキ奢るから!」
鬼丸がそう言うと、松伏は少しクスッと笑って、「……それなら、許してやる」と返した。
―同時刻、隣町のとある施設にて。
「鬼丸先輩、初デート上手くいってますかね?」
祠を壊した日にその場にいた人物の1人、大典太鎌がそう言った。その問いに答えたのは、同じくその場にいた人物の1人だった三日月メリルだ。
「どうだろうねー? あの調子じゃ、多分初デートでいきなり遅刻、だもんね?」
三日月の言葉に、同じくその場にいた人物の1人だった数珠丸李達が「全く」と溜息を吐いた。
「年下だからと言って、女性を待たせてしまうなんてありえませんよ」
「でも、鬼丸君って時間通りに間に合った事あったっけー?」
数珠丸の言葉に三日月がそう返すと、数珠丸は少し考えて「……ありませんね」と返した。
鬼丸を含む4人は、以前住んでいた施設へと戻ってきていた。とはいえ、高校を卒業したらまた施設を出なければならない。
だが、4人は既に『施設を出たら一緒に住む』事が決まっている為、困る事は何もなかった。
恐らく、4人は二度と祠を壊すような悪事は行わないだろう。
―同時刻、杜坂東中学校裏山にて。
「おー、ホントに元通りになってんスね」
1人の男性教師が、修繕された祠を見ながらそう言った。杜坂東中学校に勤務する、佐藤光輝だ。
佐藤の後ろには、杜坂東中学校の校長である霊界堂彩音が微笑みながら立っている。
「壊される前の祠な、老朽化が進んどったらしいんよ。せやから、遅かれ早かれ壊れてたやろーって」
「成程……。そこを攻撃されたわけッスか。壊れるのも無理ないッスね」
霊界堂の言葉に佐藤がそう返すと、霊界堂は「せやなあ」と返した。
これは後で本人達から聞いた話だが、彼らは1ヶ月後に結婚する事が決まっている。
霊界堂のお腹の中には既に2人の新しい命が宿っており、予定では来年辺り産まれてくるらしい。
この2人が、新しい家族とともに幸せになる事を願っておこう。
―同時刻、杜坂裁判所にて。
「被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その執行を猶予する」
この日、1人の女性の判決が言い渡された。
女性は深々と頭を下げると、その後警察に連れられその場を後にした。
―丑満時真梨恵。新見博や松伏麻里亜の命を奪おうとした女性だ。
彼女は、祠の件の全てが解決した翌日に出頭。だが出頭から判決が言い渡されるまで大分時間がかかってしまった。テレビでも、『何故こんなに時間がかかってしまったのか』等色んな事を言われている。
丑満時が裁判所のロビーに出ると、それと同時に1人の男性が、別の部屋から出てきた。
「……あっ」
見覚えのある姿に、丑満時は思わず口を開いた。
―男性の正体は、童子切骸だった。
彼もこの日判決が言い渡されていた。『懲役1年、執行猶予4年』だそうだ。
童子切もまた丑満時の姿に気づいたが、お互い声をかける事はせず、互いに会釈してその場を後にした。
―同時刻、杜坂町のとある喫茶店にて。
「わあ……! このカフェオレ、とっても美味しいですー!」
茶髪の少女がそう言うと、その隣に座っていた男性が微笑みながら「美味しいでしょう?」と返した。
この日、荒牧小梅と後藤瀧太郎は、杜坂東中学校の卒業生である遠藤菜月が経営するバーに来ていた。
とは言っても荒牧はまだ未成年の為、当然お酒は飲めない。その代わり、同じく杜坂東中学校の卒業生である柳崎由乃が作成したカフェオレを飲んでいた。
「ここの飲み物は、基本材料から厳選してますから。そうですよね?」
後藤がそう聞くと、遠藤が「ああ」と返した。
「特にそのカフェオレは、由乃の拘りがいっぱい詰まっているからね。私もたまに飲んでるけど凄く美味しいんだよ」
「成程ー、拘りですかー。どうりで美味しいわけですねー」
遠藤と荒牧がそう話していると、カウンターにいた柳崎が、おぼんで半分顔を隠しながら「……褒めすぎ」と一言返した。
「おや? 照れているのかい由乃? そんな由乃も可愛いね」
「……うるさい」
遠藤の言葉に、柳崎は更に顔を隠しながらそう返した。
―同時刻。杜坂東病院前にて。
「退院おめでと、博君」
杜坂東病院で勤務している山下楓真が、そう言って花束を渡す。
花束を渡された新見博は、少し照れくさそうに「ありがとうございます」と返した。
彼は数ヶ月前、祠が壊された日に、童子切骸を操っていた『がしゃどくろ』に握り潰されそうになり、全治2ヶ月の怪我を負っていた。この日は、その退院日だったらしい。
山下の隣にいた、彼の双子の妹である新見朱音が「もう」と溜息を吐く。
「今度無茶したら許さないんだからねー? 本気で心配したんだから!」
「だから悪かったって。もう無茶しないから。な?」
博は困ったような表情でそう返した。その様子に朱音は「でも」と安堵したように再び口を開く。
「ホント、怪我で済んで良かった。下手したら死んでたかもしれないのにね」
「ホントにそうよねえー! あたしだったら絶対出来ないわよ」
朱音の言葉に、山下がそう返す。博は少し苦笑いをしてから、「さて」と再び口を開いた。
「じゃあ、俺そろそろ行きます。朱音、今度は見舞いに来るからな」
「うん! 入院じゃなくて、お見舞いね!」
朱音がそう言うと、博は「おう」と返し、ひとつ会釈をしてからその場を後にした。
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これが、今の杜坂東、及びその周辺の様子だ。他愛のない日々だが、それも良いだろう。
……ん? 私はどうしているかって?
勿論、私はいつものように杜坂東中学校の守り神として此処にいる。たまにフラッと新見達の前に現れては他愛のない話をして去る。
そう言えば、『蛇神』と『猫叉』はいつの間にか消えておったな。あやつら、何処に行ったのだろうか。
まあ、此処におらぬという事は、もうこの地には用はないという事なのだろう。
さて、今日は誰の前に現れてやろうか。
そんな事を考えながら、空を見上げる。
「……ほう。今日は雲一つない青空か」
私はそう呟き、その場を後にした。
この後の、私が突然現れ驚いた表情の知人を思い浮かべながら。
【杜坂東の事情 -弐- 完】
作者のおかつです。
更新が途絶えていた時期もありましたが、無事最後まで完結させることができました。最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
前作から読んで頂いていた方もちらほら聞き、私としても凄く励みになりました。
さて、前作の『杜坂東の事情』、本作の『杜坂東の事情 -弐-』と続きましたが、『杜坂東の事情シリーズ』は本作で完結となります。「ホラーなのに全然怖くない!」という意見もあったかと思います。もっと怖いものをイメージしていらっしゃった方、本当に申し訳御座いません。ホラーって難しい。
『杜坂東の事情シリーズ』は最後となりますが、また新しい作品を思いつきましたらボチボチ当サイトにて公開していきたいと思っております。
その時はまた、よろしくお願いいたします。
それでは、本当にありがとうございました!
2018年 2月9日 『杜坂東の事情シリーズ』作者 おかつ




