最終話 後編(視点:新見博)
「……っだぁー! なんっで俺等がここで待機なんだよ!」
「声が大きいぞ新見よ」
思わず叫んでしまった俺を、『坂杜様』がそう静止した。
あの後、「もしかしたら犯人が戻ってくるかもしれない」との理由でこの場に待機する組をじゃんけんで決めた。
その結果、俺・佐藤先生・『坂杜様』でここに残る事になったが、いつまで待っても犯人が戻ってくる気配はない。正直、かなり暇である。
それに、他のメンバーが心配だ。無事にここに戻ってきてくれれば良いんだが。特に、松伏と荒牧先輩はそれぞれ1人で行動している。霊能力がある訳でもない。
「……無事、なんですかね」
俺が呟くようにそう言うと、その言葉が聞こえていたのか、隣に座っていた佐藤先生が「大丈夫だって」と俺の頭を撫でて言った。
「心配しなくても、あいつらなら大丈夫だ。ほら、麻里亜だって小梅だって、今まで色んな怖い事乗り越えてきたじゃねえか」
「それは、そうですけど……」
俺がそう返すと、今度は『坂杜様』が口を開いた。
「其れに、心配しすぎるのも良くないぞ新見。あまり他の事に気を取られすぎておると、今度は貴様の身が危うくなるのだからな」
『坂杜様』の言葉に、俺は「……それもそうか」と返した。
「俺がここで死んじゃったら元も子もないな」
「そういう事だ。他人の心配なら全部終わった後にしてもらおうか」
『坂杜様』は、そう言って微笑んだ。……が、その後すぐに険しい表情で周りを見始めた。
俺は一瞬首を傾げたが、その後、その理由にすぐに気づいた。
――何か、物凄く嫌な気配がする。
「……新見、貴様も気づいたか」
「ああ。しかも……これは」
俺と『坂杜様』の会話に、佐藤先生が首を傾げた。
「なんだなんだ? どうした急に?」
佐藤先生の言葉に答えるように、俺は佐藤先生の方を向いて言った。
「佐藤先生。……もしかしたら俺等、『一番ヤバイ奴』にあたっちゃったかもしれないです」
「『一番ヤバイ奴』……!?」
佐藤先生がそう聞き返すと、『坂杜様』が「うむ」と返した。
「二人とも、覚悟しておけ。……来るぞ」
『坂杜様』の言葉に、俺も佐藤先生も構えた。
『坂杜様』は既に戦闘態勢に入っているらしく、ある一点の方向を向いて黙っている。
俺も佐藤先生も『坂杜様』と同じ方向を向いた。……と、暫くして。
「……おやおや? 何か気配がすると思ったら、やっぱりいたんだねえ?」
1人の男性が、そう言いながらこちらに近づいてきた。白い着物を着た大人の男性だ。
パッと見30代くらいだろうか。
そんな事を考えながら、俺はふと『坂杜様』の方を方を見て―驚いた。
あの『坂杜様』が、動揺している。恐らく今までで一番動揺しているのではないだろうか。
『坂杜様』の様子に俺が驚きを隠せずにいると、男性は少し嬉しそうに「おやおや」と再び口を開いた。
「そこにいるのは『坂杜様』じゃないか。いやー久しぶりだね。まさかここで再会するとは思わなかったよ」
―こいつ……、『坂杜様』の事を『知っている』……?
という事は、もしかして『杜坂東中』の『卒業生』、なのか……?
更に驚きを隠せずにいると、『坂杜様』が口を開いた。
「何故だ……。何故貴様が此処にいるのだ、『童子切骸』……!」
『童子切骸』と呼ばれた男性は、「なんでって」と返した。
「決まってんじゃん。俺がその『祠』を壊した『張本人』だからだよ」
「お前が……!?」
佐藤先生が驚いたようにそう聞くと、『童子切』が「そうだよー」と答えた。
「まあ、誰かはここにいるだろうなーとは思ってたよ。けど、まさか『坂杜様』がいるなんてねえー。こんな嬉しい偶然はないよー」
「巫山戯るな。貴様の目的はなんだ。何が狙いだ」
『坂杜様』がそう言うと、『童子切』は「ふざけてないよ」と、少し怪しげな笑みを浮かべて返した。
「俺の目的は、『祠を壊して、杜坂東中学校を消滅させる事』。……って、他の子達には言ってる」
「他の子達……?」
俺がそう聞き返すと、『童子切』は「そっ」と頷いた。
「俺の他にね、4人仲間がいるんだよ。君達にも他にお仲間さんがいるんだろ? 今頃、俺の仲間と一生懸命戦ってる所じゃないかな。……でもね、彼らは知らない。俺には、他に『大事な目的』がある事を」
「『大事な目的』……?」
俺がそう聞き返すと、『童子切』は「そうだよ」と返事をした。
その後、ゆっくり『坂杜様』の方を指差すと、再び話を続けた。
「俺の本当の目的は―『坂杜様を俺の式神にする事』。学校を消滅させるのは、その為の手段に過ぎないんだよ」
「ふっざけんな!! そんな自分勝手な目的の為に学校が壊されてたまるかよ!!」
俺は、思わずそう叫んだ。
当たり前だ。『坂杜様』を式神にしたい、たったそれだけの為に学校が壊されなければならないなんて。
怒りに震えていると、今度は佐藤先生が「そもそも」と口を開いた。
「お前と『坂杜様』って一体どういう関係なわけ? まさか、ただの卒業生だけど『坂杜様』の事が気になってたからっていうだけじゃねえだろうな?」
佐藤先生のその質問に、『童子切』は「んー」と返した。
「俺が答えてやってもいいけど、俺だけベラベラと話すのもつまらないし、どうせならもう一人の当事者さんに聞いたら? ねえ、『坂杜様』?」
『童子切』に指名された『坂杜様』は、少し悩んだような表情をして黙った後、ゆっくり口を開いた。
「……数十年前、奴は杜坂東中学校の生徒であり、そして……私の、『恋人』だった」
「……ハァ!?」
俺も佐藤先生も、思わずそう叫んだ。
『童子切骸』は、『坂杜様』の……『恋人』だった? 一体何がきっかけで? いや、それよりも。
「『妖怪』と、『人間』、だろ……?」
俺が驚きを隠せないままそう呟くと、それが聞こえていたのだろう、『坂杜様』が「そうだ」と返した。
「だが、それでも私は彼を愛し、彼もまた私を愛していた。彼は、学校でずっと一人だった。友と呼べるような人間はいなかっただろう。そんな彼を見かねた私は、ある日彼に話しかける事にした。……恐らく、それがきっかけだろう。話している内に、互いに惹かれあっていった。……だが、彼の卒業が近づいてくると、彼は私に聞いたのだ。『俺の式神になって、ずっと一緒にいよう』と」
「けど」
『坂杜様』が話している途中で、『童子切』は真面目な表情で口を開いた。
「『坂杜様』は断った。『学校を守らなければならない。それが私の宿命だ』と」
「だが、あの時貴様は確かに了承したはずだろう? なのに何故今になって……!」
「……『坂杜様』には分からないか」
『坂杜様』からの問いに、『童子切』がそう返す。すると、その返答が合図だったのだろうか、『童子切』の周囲が黒い霧のような何かに覆われた。その様子に俺等が驚き周囲を見渡していると、『童子切』の背後に、何か大きな気配を感じた。
「なん、だ……?」
俺が目をこらしてよく見ると、徐々にその姿が鮮明になっていった。
『童子切』の背後にいたのは、とても大きな――『骸骨』だった。
その姿に、俺も佐藤先生も『坂杜様』も驚きを隠せずにいると、『童子切』が「『坂杜様』」と口を開いた。
「ああ、どうせなら『坂杜様』の付き人2人も覚えておくといいよ。……意外とね、一つの物や一人の人に執着する人って多いんだよ。俺も、そんな人間の一人。『坂杜様』が、ずっと俺の傍にいてくれる為ならなんだってするよ」
『童子切』は、そこまで話したところで後ろの骸骨に何か合図を送った。その瞬間、『坂杜様』が何かを勘付いたように叫んだ。
「佐藤! 新見! 逃げろ!!」
その叫びにハッとして、俺も佐藤先生も逃げようとした。だが、その時にはもう遅く、気がつくと俺等は骸骨の手に軽く握られていた。
「なっ、んだよこれ!?」
佐藤先生は慌てたようにもがくが、恐らく逃げられないように握られているのだろう、その手はびくともしなかった。
しかも骸骨自体が相当でかい為か、結構高い所にいる。逃げられたところで落ちたら大変な事になる。骸骨に握り潰されるか、骸骨の手から逃れて落ちるか。いずれにしても、多分死ぬ。
『坂杜様』が、『童子切』を睨みつけながら口を開いた。
「……そやつらを、どうする心算だ」
「決まってるでしょ。『坂杜様』の返答次第でこいつらを殺すんだよ」
『殺す』。その単語に、俺も佐藤先生も一瞬ビクッとした。
『童子切』の質問の内容は、これまでの話の流れでもう大方予想はついている。
『童子切』は、ゆっくり口を開いた。
「……これが最後だよ、『坂杜様』。俺の式神になってくれるか?」
『坂杜様』は、俺と佐藤先生の顔を交互に見て、その後考え込むような仕草を見せた。
無理もない。もしも断ってしまえば、俺も佐藤先生も殺されてしまうのだから。だが、だからと言って自らの宿命を捨てるわけにはいかない。
俺も色々考えてしまった。『坂杜様』が断ってしまったら、俺はここで死んでしまう。だが、『坂杜様』が応じてしまったら、あの平和だった学校はどうなってしまうのだろう?
そんな事を考えている内に、俺はふとある疑問が浮かび上がってきた。
「……あの、佐藤先生。こんな時に何なんスけど」
俺は、『童子切』には聞こえない程度の声で佐藤先生に呼びかけた。佐藤先生は、その声に気づいてこちらを振り向く。
「何だよこんな時に?」
「いや、素朴な疑問何スけど……、っていうか、『坂杜様』も確か言ってたんスけど。『童子切』と『坂杜様』が出逢ったのって数十年も前なんスよね? あいつが『坂杜様』に執着する人だったにしても、あいつが卒業してからずっと逢ってなかったら、そもそも存在自体忘れてそうッスけど……なんで今更、こんな事しだしたんスかね?」
「……いやいや、そういう奴だっていてもおかしくねえだろ」
俺の疑問に、佐藤先生はそう返した。だが、俺等の話が聞こえていたらしい『坂杜様』が「待てよ」と口を開いた。
「確かにそうだ。流石に私に執着しすぎではないのか……?」
そんな声が聞こえてくる。その後、『坂杜様』は暫く考える仕草を見せる。
俺は、ふと骸骨の方を見る。そういえば、この骸骨もどこかで見た事あるような気がする。恐らく実物ではなく、映画とかそういうもので。確かその中で、この大きな骸骨は『がしゃどくろ』と呼ばれていた、ような。確か埋葬されなかった死者達の骸骨や怨念が集まってできた骸骨、とか言われてたような。……怨念?
「怨念……恨み……」
俺はいつの間にか口でそう呟いていた。その後、俺はハッとして、『坂杜様』に叫んだ。
「『坂杜様』! そいつの質問に答えなくていい!!」
その場にいた、俺以外の全員が、驚いたように俺の方を見た。
「ちょ、何言ってんだ博! それじゃ俺達死んじまうかもしれないんだぞ!?」
「そうじゃない! そうじゃなくて、そいつの質問に答えずに、骸骨の方を攻撃してくれ! 『童子切』は、『この骸骨に操られているだけ』だ!!」
そのすぐ後、一瞬だけ俺が握られている方の手の力が強くなったのを感じ、思わず「ぐっ」と声を出した。
「新見!!」
それに気づいた『坂杜様』が、そう叫ぶ。そのこれに答えるように、俺は「大丈夫だ!」と返した。
「大丈夫だから、早く! その男が、完全に『がしゃどくろ』に飲まれてしまう前に……!」
「黙れよ」
『童子切』が、一段と低い声でそう言った。その後、俺が握られている方の手の力がより強くなる。
痛い。正直かなり痛い。だが、その痛みをこらえつつ、俺は続けて叫んだ。
「お前も、お前だ『童子切』! お前は、本当に、それでいいのかよ!? 自分が、自分じゃなくなる、かも、しれねえのに……!」
「君に俺の何が分かる! 何も分からないくせに、偉そうなこと言うなよ!!」
『がしゃどくろ』の手の力が、更に強くなる。俺が一つ咳をすると、血が口から少し噴き出た。
「博! もういい、何も喋んな!!」
佐藤先生の声が聞こえる。言われなくても、多分もうあまり喋ることはできない。
少しずつ、意識が薄れていく。俺は、死ぬのか。
全てを諦めかけた、その時だった。
――……ぐっ!?
一瞬、『がしゃどくろ』の呻きが聞こえ、手から解放されたような感覚がした。
暫く落ちる感覚があったが、その後その感覚はなくなった。
俺がうっすらと目を開ける、と。
「……間一髪、と言った所か」
俺を背に乗せた『蛇神様』が、こちらの方をじっと見ていた。
「『蛇神様』! 無事だったのか……!」
「『無事だったのか』じゃねえよ! 無茶しやがってこの野郎!!」
同じく『蛇神様』の背に乗っていたらしい佐藤先生がそう言った。
ふと、下の方を見る。そこには荒牧先輩や松伏、丑満時さんや校長先生の姿も見えた。どうやら全員無事だったらしく、俺は安心した。
よく見ると、山下先生や、以前少し話した事がある荒牧先輩の新しい父親の姿もあった。その他に、知らない人物が数人いる。あれは、誰だ?
そんな事を考えていると、『童子切』が動揺を隠すように口を開いた。
「あれー……? なんで君達がここにいるの、かな?」
「なあ、『童子切先生』。もうやめようぜこんな事。色々考えたんだけど、やっぱ間違ってる」
どこかの制服を着た男性が、そう言った。『童子切先生』と呼ぶ、って事は、おそらく『童子切』の言っていた『仲間』なのだろう。
だが、そんな『仲間』のはずの人物が、何故ここに?
『蛇神様』がその集団の所に体を近づけると、真っ先に山下先生が俺に駆け寄ってきた。
「やっだ、あんた吐血してるじゃないの! もーう、朱音ちゃんが見たら怒るわよ絶対!」
そう言いながら、山下先生は俺を運び、一旦地面に寝かせた。
「あの、あの人、達は?」
俺がそう聞くと、松伏が答えた。
「彼らはあの『童子切』の『仲間』だった者達だ。今は、なんとか説得して改心させた。色々と、事情があったらしいな、あの4人にも」
松伏の返答に、俺は「そ、か」と返した。
4人それぞれに、色んな事情を抱えていた。恐らく、『童子切』しか頼れる人がいなかったのだろう。
だから、今回の件にも加担した。だが、改心して『童子切』を止めようとしている。
『童子切』は、真顔で再び口を開いた。
「俺を裏切ったの? ……ああ、もしかして何か変な事吹き込まれた? もーう、皆すぐそういうの気にしちゃうんだからー。変な事吹き込まないでよ」
いつの間にか『童子切』は、松伏達を睨みつけていた。
佐藤先生は、いつの間にか校長先生の隣に立っており、声が聞こえた。
「博が言うには、あいつ操られてるだけらしいんです。後ろの……」
「ああ、あの『がしゃどくろ』やろ? なんとなーく、そんな気しとったんよ」
校長先生がそう返した後、4人のうちの1人が「そういう事なら」と口を開いた。
「そういう事なら、あの『がしゃどくろ』を封じ込める事が出来れば解決するかもしれません。……そこの寝そべっている貴方」
「……俺?」
いきなり呼ばれてそう返すと、そいつは俺に紙の御札のようなものを差し出してきた。
「俺等はとりあえず『がしゃどくろ』や『童子切先生』の足止めをします。貴方には、代わりに『がしゃどくろ』の封印をして欲しいのですが、まだ動けますか?」
「ちょっと! 怪我人に何お願いしてんのよ!」
俺の近くにいた山下先生がそう返す。
確かに、体は多分ボロボロの状態だ。だが、こんな状態でも、学校を守る為に出来る事があるのなら。
「……俺、やれます」
痛みをこらえながら俺が立ち上がると、佐藤先生が「おい!」と叫ぶ。
「死にてえのか! そんなボロボロの体で……!」
「大丈夫ッスよ佐藤先生。なんとかなりますって」
「けど……!」
佐藤先生は、心配そうに俺の方を見ている。その近くにいた松伏が、ひとつ溜息をついて、言った。
「……あいつらの足止めなら任せろ。お前は『がしゃどくろ』、封じてこい」
「ちょ、麻里亜まで……!」
佐藤先生が慌てたようすでそういうと、今度は荒牧先輩が「まあまあー」と口を開いた。
「ああなった博君はー、多分、誰にも止められませんよー」
荒牧先輩の言葉に、佐藤先生はひとつ溜息をついた。
「……分かった。けどくれぐれも無茶はするなよ? 危ねえと思ったらすぐ逃げろ。あと、『蛇神様』はそいつを『がしゃどくろ』の近くまで連れて行ってやってくれ。多分あの状態のままだと近づけねえから」
「承知した。……我の背に乗れ、新見博」
『蛇神様』の言葉に、俺は「分かった」と返し、『蛇神様』の背に再び乗った。
その様子を見ていたらしい『童子切』が「あらら」と口を開いた。
「何をしようとしてるのかな? まあ、何したって無駄だと思うけどさ。……ねえ、『がしゃどくろ』?」
その言葉が合図だったのか、『がしゃどくろ』が俺等を襲おうと動き出した。
それと同時に、松伏達が散り散りに動き出した。一斉にあちこちに逃げれば、誰を狙えばいいのか分からなくなると考えたのだろう。とはいえ、時間をかけすぎると誰かが犠牲になってしまう。
『蛇神様』は『がしゃどくろ』の動きを見ている様子だ。じっと『がしゃどくろ』の方を見ていた。暫くして、『蛇神様』が小さく「……よし」と呟いた。
「行くぞ、新見博」
「おう」
『蛇神様』の言葉に俺がそう返すと、『蛇神様』は一気に『がしゃどくろ』の方に近づいていった。
その動きに気づいたらしい『童子切』が俺等に攻撃をしかけようとするが、その動きは松伏達によって止められた。
俺と『蛇神様』は、そのまま『がしゃどくろ』の頭部へと近づく。そして。
「いっけええええええええ!!」
俺は勢いよくジャンプし、『がしゃどくろ』の頭部に先程貰った御札を貼りつけた。
――お、おオ、オオオオオオオオオオオオオオ!!
『がしゃどくろ』は、そう叫びながら徐々に御札に吸い込まれていった。
それと同時に、先程まで戦っていたはずの『童子切』が、その場に倒れた。
「童子切先生!」
どこかの制服を着た4人の生徒が、『童子切』に駆け寄る。
心配そうに『童子切』の顔を覗き込む4人に、『坂杜様』が「案ずるな」と声をかけた。
「少し眠っておるだけだ。今まで操られておったからな、無理もない」
その言葉に、4人は安堵の表情を浮かべた。
『蛇神様』の背から降りた俺は、そのまま倒れ込んだ。とはいえ、何とか意識はある。
すぐに山下先生が駆け寄ってきたのが見えた。
「ほら、すぐ病院に行くわよ! あんた多分中の骨が数本折れてると思うから! ああ、それとそっちの『童子切先生』も一応病院連れてくけど、良いわね?」
「ええ、お願いします」
山下先生の問いかけに、1人がそう返した。
「……なあ」
俺は、少し掠れた声で言った。
「……一応、学校、守れたって事で、良いん、だよな?」
その質問に答えたのは、『坂杜様』だった。
「ああ。『がしゃどくろ』が封印されてしまっては、『童子切』も何もできまい」
「そ、か。なら、良かった」
俺はそう言って、ひとつ溜息をついた。
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その後、俺は病院で手術を受けた。担当の先生曰く『全治2ヶ月』だそうだ。正直に言うと、もう少しかかると思っていた。
これは後で佐藤先生から聞いた話だが、あの4人の名前はそれぞれ『鬼丸源馬』『大典太鎌』『数珠丸李達』『三日月メリル』というらしい。その4人と『童子切』は、あの後元々いた隣町へと帰って行ったそうだ。
俺等の事を別の理由で殺そうとした丑満時さんは、あの後すぐに警察に出頭したらしい。これは病院のテレビでたまたま見ていたニュースでも報道されていた。
「……なんか、ホントに全部終わったんスね」
俺がそう言うと、見舞いに来ていた荒牧先輩が「そうですねー」と返した。
「皆、無事でよかったですー。博君もー、こうして生きていますからー」
「……そう、ッスね」
荒牧先輩の言葉に俺はそう返し、その後病院の窓の外を見た。
そこには、いつもと変わらない綺麗な青空が、広がっていた。
【エピローグへ続く】




