杜坂東の事情 ~開戦前夜~
【作者より】
このお話は『杜坂東の事情』のサイドストーリー、小話的なものです。
ただ今回は読んでおいた方が最終話に入りやすいかと思われます。
尚、今回は『杜坂東の事情』シリーズとしては珍しい三人称視点になります。
本文は以下から始まります。
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「なあーまだかよー」
ある日の深夜0時過ぎ。杜坂東中学校の裏にある小さな山の頂上で、1人の若者が退屈そうな表情でそう言った。
そこには彼の他に4人の男性がいた。その内の1人は30代くらいの男性、他の3人は若者と同い年か少し年上、もしくは少し年下くらいだろうか。30代くらいの男性は白い着物を着ており、大きな桜の木の根元にある小さな祠に手を翳し、呪文のような言葉をブツブツと呟いている。
その白い着物の男性の隣にいた、人形を抱えた可憐な少年が、その様子を見ながら言った。
「どうやらもう少しみたいだよー。祠に少しずつヒビが入ってきてる」
「おっせーよ! どんだけ待ったと思ってんだよ! 俺もう待ちくたびれたぜー!」
退屈そうな表情をしていた若者がそう叫ぶと、可憐な少年の隣にいた眼鏡の男性が「ハア」と溜息を吐いた。
「全く……。少しは静かに出来ないんですか? それとも、『待て』も出来ない『駄犬』なんですか貴方は?」
「ああ!? なんだとてめえ!?」
眼鏡の男性の言葉に若者がそう声を荒げながら近づこうとするのを、可憐な少年が制止した。
その様子を見ながら溜息を吐いたのは、声を荒げた若者の隣にいた少年だった。この中では一番年下だろう。
「もーう、皆さんうるさいですよ! 『童子切』先生が集中できないじゃないですか! 特に『鬼丸』先輩!」
少年の言葉に、『鬼丸』と呼ばれた若者がチッと舌打ちをした。
「普段一番騒がしい奴が何言ってんだよ『大典太』」
「いやー、だってほら、僕って元気だけが取り柄なとこありますから! ねー『三日月』先輩!」
『大典太』と呼ばれた少年がそう言うと、『三日月』と呼ばれた可憐な少年が笑いながら「そうだねー」と返した。
その様子を見て、眼鏡の男性がまた一つ溜息を吐く。
「大典太はうるさすぎるんですよ普段から。もう少し落ち着いて行動できないんですか? ……そこの駄犬もそうですけど」
「ああ!? てめえはさっきから『駄犬』『駄犬』うるせえんだよ『数珠丸』!」
鬼丸のその言葉に、『数珠丸』と呼ばれた男性がまた溜息を吐いた。
「まあ、さっきから駄犬が苛立っている気持ちも分からなくはありませんが」
「そうだねー。もう夜遅いし、長いこと待ってるもんねー。良い子は寝る時間なんだけどなー?」
数珠丸の言葉に、三日月がそう返した。
と、その直後だった。
――バキーン!
「……!?」
何かが壊れた音が聞こえ、4人が同時に音が聞こえた方を見る。
――その音は、祠が壊れた音だった。
暫くの沈黙の後、『童子切』と呼ばれた男性が少し疲れたような溜息を吐いてから、4人の方を振り向き言った。
「皆、待たせたね。これで『杜坂東中』の結界は更に弱まったはずだ」
その言葉に、鬼丸が「よっしゃー!」とガッツポーズをした。
「やっと暴れられるんスよね!」
「ああ。結界を破るのは任せたよ、鬼丸。……ん?」
そこまで話すと、童子切は急に誰もいないはずの空間の方を見て、誰かの話を聞くように何度か頷いた。
その後、呆れたように一つ溜息を吐いて続けた。
「……ごめん皆、作戦変更だ。どうやら少し面倒臭い事になった」
「何です? 何かあったんですか?」
童子切の言葉に数珠丸がそう返すと、童子切は答えた。
「どうやら俺達の行動が杜坂東中の関係者の数人に勘付かれたらしい。しかも、その内3人は俺達と同じ『霊能者』だ。俺達の計画の邪魔をしてくる可能性がある」
童子切からの情報に、首を傾げたのは三日月だった。
「え? それのどこが面倒臭い事なの?」
「……どういう意味ですか、三日月先輩?」
三日月の言葉に数珠丸がそう聞くと、三日月はクスクスと笑いながら言った。
「だって、僕達の邪魔をしてくる可能性があるんでしょ? だったら、そいつらが邪魔してくる前に、こっちから潰してあげればいいだけの話じゃない?」
三日月の発言に「うっわ」と笑いながら言ったのは、鬼丸だった。
「三日月先輩、たまに俺より発言が物騒ッスよね」
「えーそうかなー? 鬼丸君だって同じ事考えてたでしょー?」
鬼丸の言葉に三日月がそう返すと、鬼丸は「そうッスけど」と返した。
「暴れられる事には変わりねえッスよ! さっさと潰しちゃいましょ!」
鬼丸がそう言うと、数珠丸はまた溜息を吐いた。
「……無駄な争いは体力使うだけなので極力避けたかったのですが、仕方ありませんね」
数珠丸がそう言うと、大典太が数珠丸の様子を見て言った。
「数珠丸先輩、無理しないでくださいよー? 先輩すぐ力使いすぎて体調崩すじゃないですかー」
「貴方に心配されなくても分かってますよ。それに、こっちは5人全員が『霊能者』なのに対し、向こうは3人しか『霊能者』がいないんでしょう? 力を持たない人間なら簡単に倒せますよ」
数珠丸のその言葉に、大典太は「それもそうですね!」と安心した様子で返した。
全員が戦いに賛同したのを確認すると、童子切は不敵な笑みを浮かべながら「よし」と口を開いた。
「じゃあ、そろそろ行くか。――『開戦』は、もうすぐだ」
【杜坂東の事情 ~開戦前夜~ 完】