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第4話 後日談(視点:新見博)

「学校が『消滅』する!?」

松伏から事情を聞いた俺は、思わず目を見開きそう聞き返した。

当たり前だ。俺はただその場を丸く収めようと『新見尾登弥』先生に体を貸しただけで、『学校が消えるかもしれない』なんてとんでもない話があっているとは全く知らなかったのだから。

松伏は「そうだ」と返して続けた。

「近々、あの学校に張られていた結界が破られてしまうかもしれない。結界が破られる前に、結界の力が弱まっている原因を探し出して止める。それが学校消滅を阻止するただ1つの方法らしい」

「ですがー、その原因はー、まだわかっていないのですー。『妖怪』なのか『霊』なのかー。……あるいは、『人間』なのかー」

荒牧先輩の言葉に、俺は思わず震えてしまった。

結界の力が弱まっている原因は、まだ分からない。本当に、結界が破られる前に原因を見つけられるのか?

そんな事を考えて、不安になってしまう。失敗すれば、学校が。

「……ってぇ!?」

突然、思いっきり背中を叩かれた音がした。痛くて思わず振り向くと、そこにいたのは佐藤先生だった。

「なーにビビってんだよ! 今まで怖い経験何回もしてきたんじゃねえのかよ?」

「ビッ……ビビってないッスよ別に!」

佐藤先生の言葉に俺がそう返すと、佐藤先生は笑った。

「大丈夫だって。別にお前1人で原因を探すわけじゃない。麻里亜も小梅も、校長も俺も、『蛇神様』も『猫叉』も、『坂杜様』だっている。皆で探せば、すぐ原因が分かるさ。……それに」

そこまで話した所で、佐藤先生は『蛇神様』、『猫叉』、『坂杜様』の方を見て、続けた。

「……あいつらは、心当たりがあるらしいしな」

「……えっ!?」

俺が驚いたように3体の方を見ると、『坂杜様』が「まだ確信はないがな」と返した。

「ただ、最近『杜坂東地区』に引っ越してきた5人の人物がいる。確かに人間ではあるのだが、少し妙でな」

「妙、とはー?」

荒牧先輩がそう聞くと、それに答えたのは『猫叉』だった。

「そいつら全員、本人とは別にもう1つ『気配』があるんだニャ。それは多分、っていうか絶対『人間の気配じゃない』」

「『霊』か『妖怪』を操る……新見や校長先生のような『霊能者』の可能性があるという事ですか?」

松伏がそう聞くと、校長先生が「あるいは……『陰陽師』かやなあ」と付け加えた。

その後、『蛇神様』が口を開いた。

「何れにせよ、その5人の輩の事を無視は出来ぬであろう。その内、我等の前に現れるかもしれぬ。心しておけ」

「それは勿論ー。……ですがー」

『蛇神様』の言葉に荒牧先輩はそう返した後、ある人物を指差して言った。

「……あの方はー、どうしましょうかー?」

その言葉に、その場にいた全員が、荒牧先輩が指差した方を見る。


――『丑満時真梨恵』さんだった。


丑満時さんはその場に座り込んで俯いていたが、荒牧先輩の言葉が聞こえてきたのか、顔をあげた。

その表情は、何処か悲し気な表情をしている。本来ならそのまま警察にでも出頭させるのが良い、んだけど。

俺は丑満時さんの傍まで近づくと、彼女の目線に合わせるようにしゃがんで話しかけた。

「あの。俺等が話してた事、聞こえました?」

俺の問いに、丑満時さんが頷いたのを確認すると、俺は次の質問をした。

「丑満時さんって、杜坂東中の卒業生なんスよね? 学校、消滅してほしくないでしょう?」

その質問に丑満時さんが頷く。ここまでは想定内だ。

後ろから佐藤先生の「お前、まさか」という声が聞こえたが、それを無視して俺は聞いた。

「……もし俺等と協力してくれるなら、警察への出頭は待ちますけど……どうします?」

俺のその質問に、後ろから驚いたような声が聞こえる。

だが誰よりも一番驚いていたのは丑満時さんだったようで、一瞬目を見開いた後、俺の方をじっと見つめて聞き返した。

「……正気なの? 未遂とはいえ、私貴方を殺そうとしたんだよ?」

「んなの知ってますよ。けど、何もせずにただ黙って警察に出頭して、それでいいんスか? 自分が卒業した学校が消えてしまうかもしれないのに?」

俺がそう聞くと、丑満時さんは少し黙った後、首を横に振った。その行動を確認すると、俺は更に続けた。

「じゃあ、協力してくれますか? まあ、分かってると思いますけど、全部終わったらちゃんと出頭して貰いますんで」

俺のその言葉に、丑満時さんはまた少し黙った後、頷いた。

「……じゃ、決まりッスね」

そう言いながら立ち上がり、俺は手を差し出す。丑満時さんがその手をとったのを確認すると、手を引っ張って立ち上がらせた。

その一連の流れを黙って見ていた『坂杜様』が口を開いた。

「……まさか、貴様とまた行動出来る日が来ようとはな。まあ、『霊能者』としての力が開花した貴様が加われば、こちらとしても心強い」

「えへへ、またよろしくねー『坂杜様』」

『坂杜様』の言葉に、丑満時さんがそう返すと、今度は松伏が丑満時さんを睨みながら口を開く。

「……言っときますけど、私はまだ貴方を許してませんから」

「それは分かってるよ。私も許してくれるとは思ってないしねー」

松伏の言葉に丑満時さんがそう返すと、松伏は一つため息を吐いた。


それにしても、さっき『坂杜様』が言ってた、5人の『霊能者』かもしれない人物。

一体どんな奴等なんだろう。本当に俺等の前に現れたりするのだろうか。……いや、もしそいつらが本当に結界の力を弱めているのなら、俺等のような存在は『邪魔』なのかもしれない。

そいつらが、どんな奴を『操っている』のかも気になる。もしも『坂杜様』や『蛇神様』のように強大な力を持つ『妖怪』だとしたら。

「……上等だ」

俺は、呟くようにそう言った。

これはいわば、その5人との『喧嘩』だと思えばいい。そう思えば怖くない。……多分。


――ふと窓の外を見ると、もうすぐ朝になろうとしていた。


【最終話へ続く】

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