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第4話 前編(視点:佐藤光輝)

「転校生?」

朝礼での急な校長先生からの知らせに、俺は首を傾げた。

「この時期にッスか?」

「せや。1人は2年生、もう1人は1年生や。なんでも、2人とも両親の都合で急遽引っ越して来はったらしいんよ。2人一緒にいうんも奇妙やけどなあ」

そう言いながら、校長先生は腕を組んで考える素振りを見せた。

確かに、両親の都合であればこの時期の転校も有り得ない話ではない。だが、2人同時にというのがどうも引っかかる。単なる偶然なのか、それとも。

そんな事を考えている時、職員室のドアが開き、制服姿の2人組が現れた。

「失礼します。本日よりこちらの学校に通わせて頂く者ですが……」

「ああ、お前らか。話は校長先生から……、……?」

そう返しながら校長先生の方を見て、俺は驚きを隠せなかった。

――あの校長先生が、あの2人に対して、嫌悪感を露わにしている。そんな表情をしていたのだ。

何故そんな表情をしているのか気になって仕方がないが、流石に他の先生がいる前だ。

「……校長先生」

小声でそう呼びながら校長先生の背中を軽くポンッと叩くと、校長先生はハッとした表情で俺の方を見て、その後いつものあの穏やかな表情に戻った。

「あ……、ああ、ボーッとしとったわあ。堪忍な? ……改めて、うちがこの学校の校長、霊界堂彩音や。よろしゅうな」

校長先生がそう挨拶しに行くと、2人も「よろしくお願いします」とお辞儀をした。

「ほんなら……えっと、蛇沢雅竜へびさわがりゅうはん……やったっけ。蛇沢はんは2年生の担任の山中廣重やまなかひろしげ先生んとこに、猫叉操ねこまたみさおはんは、1年生の担任の佐藤光輝先生んとこに行ってや。……山中先生、佐藤先生、頼みますえ」

そう言った校長先生の表情は、いつものあの穏やかな笑顔だった。

だが、初めて校長先生に会った時の表情のような奇妙な違和感を感じる。……これは、一体?

だが、これ以上考えるのも良くないと思い、俺は校長先生からの指示に「はい」と返事をした。

……それにしても。

俺は目の前にやって来た操の顔を見て首を傾げた。

この子、前に何処かで会った事ある、ような。それもずっと前に。

「……? 佐藤先生どうしたんです?」

操はそう言いながら、俺と同じく首を傾げる。俺はその問いに「……いや、なんでもない」と返した。

きっと気の所為だ。おそらくデジャヴのようなものだろう。暫くすればそんな事考えてたなんて忘れているだろう。

今は、自分の仕事に集中しなければ。

そう思い、俺は操を教室まで案内した。


操を教室まで案内している途中、博と麻里亜の2人と丁度すれ違った。

2人は話に夢中でこちらの方に気づかなかった様子だったが、暫くして「あっ」と博の声が聞こえた。

「佐藤先生おはようございまーす!」

「おう、おはよう」

その声に俺が振り返りながらそう返すと、麻里亜も続けて「おはようございます」と挨拶してきた。

続けて博が、首を傾げながら、俺の隣にいる操を見て言った。

「先生、その子は? 転校生ッスか?」

「ん? ああ、この子は猫叉操。お前達と同じ1年だ。親の事情で転校してきたらしい」

俺がそう紹介すると、操は手を振りながら「よろしくー」と言った。

続けて博が再び口を開く。

「俺は新見博。これからよろしく! んでこっちは俺の幼馴染の松伏麻里亜……、松伏?」

ふと麻里亜の様子を見ると、何かを考えているように見えた。

博に名前を呼ばれ、ハッとした様子で口を開く。

「……ああ、すまない。松伏麻里亜だ。よろしく」

麻里亜の自己紹介に操が「よろしくー」と返す。

先程の何かを考えている様子が気になるが、あまり気にしなくても大丈夫だろう。

そんな事を考えていると、奥の方から山中先生と雅竜がやってきた。山中先生は「あっ佐藤先生!」と手を振りながら近づいてくる。

「おっ、松伏さんも新見君も一緒か! おはよう2人とも!」

山中先生がそう挨拶する。

「あっ! 山中先生、おは……よ……」

博が山中先生の方を振り向き挨拶しようとして――そのまま動きを止めた。

続けて麻里亜も山中先生の方を振り向き、動きを止めた。

「お? 2人ともどうしたんだ?」

俺はそう声をかけながら2人の顔を覗き込み、驚いた。

――その表情はまるで、何かに怯えているような、そんな表情だったのだ。

俺は2人の目線の先を見る。その目線は、雅竜の方を見ていた。雅竜はきょとんとした表情で首を傾げている。

雅竜を見て、怯えている……? 一体何があるというんだ? 2人と雅竜は初対面なはずだ。なのに何故怯えている? ……それとも、俺が知らない所で逢った事があり、その時によほどひどい事をされていた、とか?

そんな事を考えていると、更に奥の方から校長先生の姿が見えた。

校長先生の方を見ると、何やら手招きしているように見える。どうやら呼ばれているようだ。

「あー……悪い、ちょっと呼ばれてるみたいだから行ってくるわ。朝礼は後で副担任に言っとくから先に教室戻ってて!」

俺はそう言ってその場を立ち去った。博と麻里亜はその声にハッとしたようで、「あっ、はーい!」という博の声が聞こえてきた。



「で、何スか?」

校長先生に着いていき美術室の奥にある屋上に着くと、俺は校長先生にそう聞いた。

校長先生は俺の方を振り向きながら「これ、内緒にしといてや」と言って続けた。

「……蛇沢はんと猫叉はんの事やけど、佐藤先生、何か感じひんかった?」

「雅竜と操? いや、別に……。けどさっき博が雅竜を見て怯えてる様子だったから、それがちょっと気になるくらいッスね。……けど、それが何か?」

「新見はんが……。……やっぱり」

そう言いながら、校長先生は何か考えるような仕草を見せた。

何か、思う事でもあるのだろうか。そう思いながら、俺は校長先生に聞いた。

「あの、『やっぱり』ってどういう意味です?」

校長先生は、一呼吸おいてから答えた。

「……あの2人の正体、多分やけど……『蛇神様』と『猫叉』や」

「『蛇神様』……!? 『蛇神様』ですって!?!?」

あまりに衝撃すぎて思わずそう聞き返すと、校長先生はゆっくり頷いた。

そんな、まさかあの『蛇神様』と『猫叉』が、この学校に転校してきた生徒に扮して再度俺達の前に現れるなんて。だが、そう考えれば、『新見尾登弥先生』の生まれ変わりである博が雅竜を見て怯えるのも、朝校長先生があの2人に対して嫌悪感を露わにしていたのも、確かに合点がいく。

だが、問題は何故『蛇神様』と『猫叉』が、俺達の前に再度現れたのかという事だ。

「……そういえば、うちもう一つ気になる事あるんよ」

「もう一つ? 何スか?」

校長先生の言葉にそう聞くと、校長先生は首を傾げながら聞いた。

「佐藤先生、今日『坂杜様』に会うた?」

「『坂杜様』? ……あっ」

校長先生に聞かれて、俺はハッとした。

そう言えば、今日は朝から『坂杜様』の姿が視えない。普段なら朝からひょっこり現れて色々話している所なのだが、それがなかったという事は、この学校自体にいない事になる。

一体、この学校に何が起こっているんだろうか。

「……急に現れた『蛇神様』と『猫叉』。それに急にいなくなった『坂杜様』。……これって、何かに関係してるんスかね?」

俺が校長先生にそう聞くと、校長先生がいる方とは逆方向から声が聞こえてきた。


「それ、本人に聞いたら?」


その声に驚いて振り向くと、そこには『蛇神様』と『猫叉』の2人がいた。

俺も校長先生も思わず身構えるが、『蛇神様』に「案ずるな」と言われ首を傾げた。

「今更お主らを襲った所でどうにもならぬ。それに、あの者達との約束もあるからな」

「ほんなら、何しにここに来はったんどす? 『蛇神様』の事や、ただ単に遊びに来はった訳やあらしませんやろ?」

校長先生は尚も睨みながら2人に聞く。『蛇神様』は「察しが良いな」と返して、続けた。

「これは『坂杜』から聞いた話だが、新見博と松伏麻里亜、だったか。あの2人を狙っておる者がいるらしい。『坂杜』はその者の監視に向かっている。その為我がこの学校の護衛を任された」

「それがもし本当の話なら、担任として無視できない話だな。……で、それって誰なのか知ってんのか?」

俺も、2人を睨みつけながら聞いた。だが、『蛇神様』からの答えに、俺は目を見開いた。

「……『丑満時真梨恵』、らしい」

俺は思わず『蛇神様』の胸ぐらを掴んだ。

「ふっざけんな! 真梨恵がそんな事する訳ねえだろ!!」

それでも、『蛇神様』は冷静に答えた。

「言ったであろう、『坂杜』から聞いたと。それにあやつは友を何よりも大事にするやつだと聞いた。友の為ならどんな事だってするやつだという事も」

「だからって……! だって、あの2人を狙って何をしようとしてんだよ真梨恵は!?」

その言葉に何かを察したかのように、後ろから「まさか」と校長先生の声が聞こえてきた。

「丑満時はん、蘇らせようとしてはるん? 松伏紀和子はんと、新見尾登弥はんを」

――紀和子と、新見先生を、蘇らせようとしている。

校長先生の言葉に、俺は動揺を隠せず、『蛇神様』の胸ぐらを掴んでいた手をそっと離した。

それはつまり、真梨恵が博と麻里亜を捕らえて――『殺そうとしている』という事を意味している。

もし、もしそれが本当だとしたら大変な事だが、まさか、真梨恵が。

俺はどうしても信じる事ができなかった。

『蛇神様』は、先ほどの校長先生の言葉や自身の言葉に補足するかのように言った。

「まあ、真実かどうかは『坂杜』も定かではないらしい。だが、それがもし本当だとしたら止めねばならぬ。お主の生徒である新見博と松伏麻里亜の為にも。そして、丑満時真梨恵本人の為にも」

確かに、もしそれが本当なら止めなければならない。生徒も、真梨恵も、守る為に。

「せやけど」

校長先生が後ろからそう言った。振り向くと、校長先生は何かを考えるような仕草を見せている。

「その丑満時はんがどこにおるんか分からへんのなら、止めようがあらへんのやない?」

そんな校長先生の質問に答えたのは『猫叉』だった。

「それなら心配ないと思うよー。新見博や松伏麻里亜を狙ってるって事はさ、必ずその2人の近くに現れるって事でしょ? んで、あの2人から聞いたんだけど、あの2人って幼馴染なんだって? って事は」

「……そうか! あの2人の通学路の何処かに必ず現れる……!」

俺がそう返すと、『猫叉』は「そう言う事」と返した。

「ほんなら、早速やけど今日から2人の様子見といた方がええなあ。佐藤先生、任せてもええ?」

「勿論ッスよ。生徒と真梨恵に関わる事ッス。何もしないわけには行きませんから」

そう言いつつ、俺はまだ信じられなかった。真梨恵が、博や麻里亜を殺そうとしているなんて。

……いや、信じたくないだけなのかもしれない。だが大切な友達が罪を犯そうとしているのなら、友として止めなければならないだろう。いや、止めなければならないのだ。彼女の為にも。



「え? 一緒に帰る?」

その日の放課後。下校しようとしていた博と麻里亜に「暫く俺が一緒に帰るから」と告げると、麻里亜が首を傾げながらそう返した。「駄目か?」と俺が返すと、麻里亜は尚も首を傾げたまま問い返した。

「構いませんが、何故急に?」

「実はある生徒から報告があってな。博と麻里亜がいつも帰ってる通学路で最近不審者をよく見かけるらしいんだよ。担任としては、見過ごすわけにはいかないからな」

俺がそう返すと、博が何か考えるように「んー?」と首を傾げた。恐らくこれまでの帰り道を思い返しているのだろう。

暫くすると、博が再び口を開いた。

「けど先生。俺その不審者見かけた事ないんスけど?」

「私もないですね。本当なんですか?」

「お前達2人に見えない様な所にいたのかもしんねえだろ? それか、2人が話に夢中になっていて気づかなかったか」

俺がそう返すと、博は「それもそうッスね」と納得した様子だった。

麻里亜はまだ疑問が残っている様子だったが、暫くして「……分かりました」と了解の返事をした。


下校中、俺は博や麻里亜と色んな話をした。と言っても、世間話や進路の話、来週に控えているテストの話等特に大した話じゃないのだが。

テストの話では、全国一斉学年テストでも上位を維持している麻里亜はいつもの表情で聞いていたが、逆に普段のテストでも赤点をよくとっている博は時々耳を塞いで「聞きたくない」と嘆いていた。その度に麻里亜に「勉強しないからだ阿呆」とツッコまれていたが。

そんな、他愛のない会話をしていた時だった。

「……ん?」

博が、ふと立ち止まった。それにつられるように俺も麻里亜も立ち止まる。

「どうした、博?」

俺がそう聞いても、博はある方向を見たまま答えない。俺も麻里亜も、博が見ている方向と同じ方を向いた。

――洋館だ。ここ数年誰も住んでいないのか、あまり手入れされていないように見える。

だが、よく耳を澄ますと、その洋館からピアノの音色が聞こえてきた。

暫くすると、博が「松伏」と口を開いた。

「ここ、誰か住んでたっけ?」

「いや、私の記憶だと誰も住んでいなかったはずだが……って、おい新見!」

気づけば、博がその洋館に足を踏み入れようとしていた。麻里亜もそれを追うように洋館に足を踏み入れる。

俺は洋館を見ながら、ピアノの音色を聞いた。恐らく曲は『エリーゼのために』だ。それにしてもこの洋館、何処かで見た事あるような……。……洋館? ピアノ?

――まさか。

「博! 麻里亜! 戻ってこい!!」

ある嫌な予感がよぎって、俺は洋館に足を踏み入れる2人にそう叫んだ。

だがその時にはもう既に遅く、入り口の所にあったモミジの木に設置されていたらしい檻のようなものが落ちて、博や麻里亜を閉じ込めた。

「博! 麻里亜!」

俺は、2人が閉じ込められている檻に近づこうとした。だが。

「……ウッ!?」

突然、後ろから誰かに頭を殴られ、俺はそのまま、意識を失った。


目が覚めると、そこは大広間のような所だった。

俺はそこから動こうとするが、その行動は何かによって阻まれた。見ると首に首輪がついており、少し離れた鉄柱のようなものに繋がれていた。

目の前には、檻の中で十字架に磔にされている博と麻里亜の姿があり、俺が何度呼んでも返事がない。

暫くすると、大広間の扉が開き、一人の女性が大広間に入ってきた。その女性を見て、俺は驚愕した。

……間違いない。間違えるはずがない。だって、彼女は。

「……真梨恵」

俺がその名を呼ぶと、『真梨恵』は俺の方を見て微笑み、口を開いた。


「……久しぶりだね、佐藤君」


【第4話 中編へ続く】

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