第4話 前日談(視点:前半…????/後半:丑満時真梨恵?)
あれからどれほどの時間が経ったのだろう。
再び、我を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声は、何処か聞き覚えのある声で、懐かしくも感じる声であった。正直に言えばもう少し眠っていたい所だが、呼ばれてしまったのだから仕方がない。
我は、再び目覚める事にした――。
「あ、やっと起きたね。おはよう」
その声にふと下を見て、我は一つため息を吐いた。
「……やはりお主であったか、『猫叉』」
「この私に何度も起こさせないでよね。寝坊助な『蛇神様』?」
そう言いながら、『猫叉』はクスクスと笑った。
この『猫叉』と初めて出逢ったのは、確か数十年前。『新見尾登弥』と『松伏紀和子』を我の『贄』とした、その前日だった。
その時も、こうして何度も呼ばれたっけか。
「……して、今度は何の用だ」
我がそう聞くと、『猫叉』は「相変わらず冷めてるなあー」と溜息を吐き、続けた。
「いや実はね、ちょっと面白い話を耳にしてさ。あと、ちょっと気になる話も」
「ほう。ではまず面白い話から聞かせてもらおうか」
我がそう返すと、『猫叉』はクスクスと笑いながら言った。
「『新見尾登弥』と『松伏紀和子』の事は、覚えてるでしょ? ……その二人の『生まれ変わり』が、この学校に通ってるみたいだよ」
「……何?」
あの二人の『生まれ変わり』が……この学校に?
確かにあの日から数十年も経っている。生まれ変わりがいてもおかしくはない。……が、まさかこの学校に通っているとは。
「……何かの間違いではないのか?」
「それが違うんだよ。私はっきり聞いちゃったからね。『佐藤光輝』と『後藤瀧太郎』が話してるとこ」
「……ほう」
『猫叉』の話を聞きながら、我はニヤリと笑った。それがもし本当だとしたら、本当に面白い話だ。
「……して、気になる話というのは?」
我がそう聞くと、『猫叉』が「それなんだけど」と口を開いた。
「それはこいつに話してもらった方が良いと思って、連れてきた」
『猫叉』がそう言うと、奥の方から見覚えのある人物が出てきた。
「……久しいな、『坂杜』よ」
「……本当は貴様にはもう二度と逢いたくなかったのだがな」
『坂杜』は、我の事を睨みながらそう言った。
無理もない。『坂杜』はあの日もどちらかというと我の『敵』側だったのだから。
『坂杜』は「まあ良い」と一つ溜息を吐いてから続けた。
「……『新見尾登弥』と『松伏紀和子』の事は覚えておるな」
「ああ、覚えている。生まれ変わりがこの学校に通っておるのだろう?」
「そうだ。だが私が話したいのはその事ではない。……『丑満時真梨恵』の事は覚えておるか?」
「『丑満時真梨恵』……。……ああ、あの長い黒髪の奴か。前髪が揃っている」
我がそう返すと、『坂杜』は「そうだ」と返した。
『丑満時真梨恵』の事は、正直さほど印象には残っておらぬが、髪型と雰囲気でなんとなくは覚えておった。
「……そいつが如何した?」
我がそう聞くと、『坂杜』は真面目な表情で言った。
「……最近、あやつが妙な動きをしていると耳にしてな」
「……妙な動き?」
「そうだ。歌手活動をしておる事は前々から知っていたが、それとは別に、何かを研究しているらしい」
「研究? 何を?」
我がそう聞き返すと、『坂杜』は一瞬発言を躊躇った後、ゆっくり口を開いた。
「……『新見尾登弥』と『松伏紀和子』の、『蘇生』」
「『蘇生』だと!?」
我が驚いたようにそう聞き返すと、『坂杜』は「そうらしい」と返した。
「私も噂に聞いた程度である為定かな情報ではないのだが、もしそれが本当だとしたら、大変な事になる。今いる『新見尾登弥』の生まれ変わりと『松伏紀和子』の生まれ変わりにとっても。……『丑満時真梨恵』自身にとっても」
「大変な事どころではない! 下手すれば死んでしまうかもしれぬのだぞ!? それに、もしかしたらこの世界自体にも……!」
「少なからず、影響は出るだろうな」
『坂杜』はそう言って一つ溜息を吐いた。
「……私は、暫く『丑満時真梨恵』の様子を伺う為にこの学校を離れる。その間貴様に、私の代わりにこの学校を守ってほしいのだ。本当はこんな事、貴様に頼みたくはないのだがな」
「分かった。引き受けよう。……安心しろ、誰かを再び襲うような事はせん。……約束は、約束であるからな」
『坂杜』からの頼みにそう返すと、『坂杜』は「ほう」と口を開いた。
「覚えておったのか、あの日の『約束』を」
「我は約束は破らぬ蛇であるからな」
我がそう返すと、『坂杜』は「頼んだぞ」と一言言って、その場を去った。
……しかし、『丑満時真梨恵』は、何故あの二人を『蘇生』させようとしておるのだろうか。
よほど、あやつにとって大切な二人であったのだろうか。
「……我には、分からぬ心よ」
我はそう呟いて、先程『坂杜』が去って行った方を見た。
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「んんー? また失敗しちゃったなあー?」
私は首を傾げながら、一人そう言った。
……まだ足りない。
あの二人を蘇らせるための何かが、まだ足りない。
だけど何が足りないのか、私には分からなかった。しょうがないよね。昔から頭悪かったもん、私。
(……だけど)
私は、中学3年生に進級した時に皆で撮った集合写真を見る。
その中には新見先生と松伏さんもいる。笑っている。……もう、今はこの世には、いない。
(……あの時の笑顔を)
絶対、蘇らせなきゃいけないんだ。それが、今の私の使命。
ふと携帯のバイブが鳴り、私は携帯を手にしてコミュニケーションアプリを開く。佐藤君からだった。
『そう言えば真梨恵に伝えたい事があってな! 実は、新見先生と紀和子の生まれ変わりが、杜坂東に通ってんだ! すごくねえ!?』
「……そっか」
佐藤君からの知らせに、私は笑みを浮かべながら呟いた。
そうか。新見先生と松伏さんの魂は、その生まれ変わり――『偽物』に奪われてしまったんだ。
そうかそうか。どうりで何度やっても『蘇生』が失敗するわけだ。
「……取り戻さないと」
私はそう呟いて、準備を進めた。
『偽物』から――『本物』を取り戻す為に。
【第4話 前編へ続く】




