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第3話 後編(視点:新見博)

病室のドアを開けると、そこにはやはり朱音の姿があった。

朱音は、山下先生の言っていた例の女の子と話している様子だった。だが俺の方に気づくと「あ!」と嬉しそうな表情になった。

「お兄ちゃん! それに山下先生も! あと……お兄ちゃんのお友達?」

大人数での急な訪問に、朱音もキョトンとした様子で首を傾げる。先程まで朱音と話していた女の子もこちらに気づいたようで、こっちを見て首を傾げている。

俺はゆっくり二人の方に近づくと、地べたに座っている二人の目線に合わせるようにしゃがんだ。

「俺、新見博。いつも妹と仲良くしてくれてありがとうな。良かったらお前の名前を教えてくれるか?」

俺がそう聞くと、女の子は俺の方をじっと見つめながら答えた。

『……麻美。御子柴麻美みこしばあさみ。……朱音お姉ちゃんの、お兄ちゃん?』

「そう。双子のお兄ちゃんだ」

『そっか。……私もね、双子のお姉ちゃんがいるの。けど朱音お姉ちゃんと博お兄ちゃんは、あんまり似てないね?』

そう言って、御子柴は首を傾げた。その言葉に俺は「よく言われる」と苦笑いした。

その間、朱音は俺の後ろにいた松伏達をじっと見つめていた。暫くして、朱音は俺の服の袖を引っ張って言った。

「ねえお兄ちゃん! 後ろの人達も紹介してよー!」

「え? ああ、そうだな。……だってよ」

俺はすぐ後ろに立っていた松伏の方を見て言った。松伏は「ああ」と返事をしてから口を開いた。

「……松伏麻里亜。新見とはクラスメイトだ」

「麻里亜……? ……あっ! もしかして近所の松伏さんとこの? 退院しても、そこに住んでる人に会った事なかったから気になってたんだー!」

朱音がそういうと、松伏は少し困った表情で「そうか」と返した。

その後朱音は松伏の後ろに立っていた荒牧先輩を見て言った。

「それで? そっちの凄く美人な方は?」

「あらー、美人だなんてー」

荒牧先輩は少し照れくさそうに微笑みながら言った。

「荒牧小梅ですー。中学ー、3年生なのでー、博君のー、先輩ですねー」

「そっか! じゃあ私の先輩でもあるんだね。どうりで声もしゃべり方も落ち着いてて美人なわけだわー。私が男だったら絶対付き合いたかった!」

朱音の半ばナンパしてるかのような褒めように、荒牧先輩は「ありがとうございますー」と照れ笑いした。

続いて、朱音は荒牧先輩の更に後ろにいた二人を見て言った。

「あっ! 私その後ろの二人は知ってるよ! 佐藤先生に校長先生でしょ? またお見舞い来てくれたんですね。ありがとうございます! お兄ちゃん、学校ではどんな感じですか?」

「相変わらず常に赤点とるような馬鹿だよ」

佐藤先生の返答に、俺は少しムッとした。勉強はしてるんだぞ、これでも。実力が出ないだけで。

荒牧先輩と松伏の方を見ると、少し笑っているように見えた。笑うんじゃない。

朱音は続けて、校長先生の隣にいた『坂杜様』の方を見て首を傾げた。

「で……、校長先生の隣にいる人は誰? なんか、人間の姿をしてるけど、オーラが人間じゃない……みたいな」

『坂杜様』は「ほう」と何処か興味深そうな表情で口を開いた。

「やはり分かる者には分かってしまうのか。なるべく人間の世界に溶け込めるようにした心算なんだがな。……まあ良い。私は、貴様の兄が通っておる学び舎を守っている者だ」

「うちらは、『坂杜様』ー言うてるんよ」

『坂杜様』の自己紹介に、校長先生が付け加えるようにそう言った。

朱音は「へー!」と興味津々に言った。

「凄い凄い! 学校を守ってるんだ! じゃあお兄ちゃんの事も守ってくれてるって事だよね。ありがとう!」

朱音がそういうと、『坂杜様』は「……ふん」と顔を背けた。……照れているのか?

その後、『坂杜様』は「そんな事より」と話題を変えるかのように言った。

「……御子柴麻美と言ったな。貴様は、何故ここにいる? 貴様の『未練』は何だ?」

『……みれん?』

『坂杜様』の言葉に御子柴が首を傾げる。

「そうだ。この病室にとどまっておるという事は、当然それなりの『未練』というものがあるだろう」

『坂杜様』がそう話している間も、御子柴は首を傾げ続けている。

『みれんって……何の事? 私は、病気をして、ここに入院し続けてるだけだよ?』

どうも、御子柴と『坂杜様』の会話は辻褄が合わない。

どういうことだ? 『未練』の意味が分かっていないのか? ……まあ、まだ6歳だから無理もないか。

……待て。まだ6歳? ……まだ、6歳……?

(……まさか)

ある一つの真実に気づき、俺は御子柴の方に近づき、しゃがんだ。

「……どうした、新見?」

『坂杜様』が首を傾げる。俺は、御子柴の方をじっと見つめて一言、言った。

「……なあ御子柴。……お前は、『自分が死んでいる事に気づいてない』んじゃねえか?」

御子柴は、驚いたような表情で俺を見た。

『……しんだ? 私、しんだ、の……? ……だって! 朱音お姉ちゃんとちゃんと話せてるし、博お兄ちゃんとだって……!』

「それは俺や朱音が特別な体質……っていってもわかんないか。『幽霊と話す事が出来る』だけだ。……松伏」

御子柴との会話の途中で、俺は松伏の方を見た。

松伏は、少し戸惑った表情で俺の方を見る。おそらく、これから俺が質問しようとしている内容が分かっているんだろう。

「……お前には、『御子柴麻美の姿が視えるか』?」

松伏は俺から目を逸らし、続いて顔を背け、その後何かを決心したかのように再び俺の方を見て、言った。

「……否。私には、『御子柴麻美の姿が視えない』。もっと言えば、『彼女の声も聞こえない』」

俺の後ろから、『え……?』と動揺しているような声が聞こえてきた。間違いなく御子柴の声だ。

『坂杜様』は「ふむ」と感心したように言った。

「確かに、死んだ事に気づかなければ成仏する事など出来ぬからな。この病室にとどまり続ける理由も頷ける」

『坂杜様』はそう言って、御子柴の方を見た。

同じく俺も御子柴の方を見ると、御子柴は俯いたまま黙っていた。だが、暫くして『そ、っか』と口を開いた。

『私、死んじゃったん、だね。そっか。……そうだったんだ。……馬鹿だねえ、私。なんで、気づかなかったんだろ。……私、死んじゃったん、だよね?』

最期の確認をするためなのか、御子柴は俺の方を再びみて、そう聞いた。

その時の御子柴の切なげな表情に、少し涙をこらえながら、俺は答えた。

「……ああ。お前は、死んでるんだ」

俺の返答に、御子柴は『……そっか』と返事をした。

『……ありがとう、博お兄ちゃん。……朱音お姉ちゃん』

その言葉を最期に、御子柴は消えていった。

やはり、ただ単に自分が死んでいる事に気づいていなかっただけだったらしい。他に特に未練があったわけでもなく、成仏していった。



「今日は、皆ホントにありがとうね」

病院から出ると、玄関先で山下先生がそう言った。

「……山下先生。朱音の事なんだけど……」

「大丈夫、分かってるわ。麻美ちゃんは朱音ちゃんにとって、この病院内でやっとできたお友達だったの。……そんな子が、自分の目の前で成仏していくなんて、悲しまないわけがないわ」

山下先生はそう言って、病院の方を見た。

「……麻美ちゃんも、病院にいた頃はずっと病室に閉じこもってたものだから、お友達なんて全然出来ないまま亡くなっちゃったのよ。だから、きっと嬉しかったと思うわ。朱音ちゃんが、お友達になってくれて」

山下先生はそう言いながら、悲し気な表情を浮かべた。

……俺は、入院というものをしたことがないからよくわからない。だが、朱音が初めて入院した時、『ずっと一人でいるから寂しい』と言っていた事があった。だから多分、御子柴も同じような思いをしていたんだと思う。

「……天国で、元気に走り回ってるといいですね」

俺がそう言うと、山下先生は「そうね」と返事をした。

御子柴は、重い病気にかかって亡くなってしまった。……いつか、朱音にもそんな日が来る事があるんだろうか?

そんな考えを振り払うかのように、俺は背伸びをして空を見上げた。……と。

「……あ」

俺が見上げたのとほぼ同時に、ひとつの流れ星が流れた。

そういえば、人が死ぬと、その人の星が流星となって落ちるなんて話を聞いた事がある。

(……あの星は、御子柴の星か?)

そんな事を考えながら、俺はずっと満天の星空を見つめていた。


【第3話 後日談へ続く】

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